1985年に開園した同園では、当初からレッサーパンダを飼ってきた。しかし、なかなか繁殖には結びつかなかった。
レッサーパンダはヒマラヤに近いインド、中国、ネパール、ブータン、ミャンマーの高地で暮らす。生息地や外見の特徴からシセンレッサーパンダとネパールレッサーパンダに分けられ、日本の動物園で飼育されているのは主にシセンレッサーパンダだ。日本動物園水族館協会によると、国内のシセンレッサーパンダの飼育頭数は2021年7月31日時点で264頭。世界では17年末時点で349頭といい、日本が最大の飼育国になっている。
野生では2500~1万頭しかいないとされる絶滅危惧種だ。こうした動物は自然界での保護の一方、動物園が「種の保存の場」と位置づけられており、近親交配にならないよう各園が個体を貸し借りして繁殖に力を入れている。園間の貸し借りのことをブリーディング・ローンという。
静岡生まれの風太が千葉へ来たのはそのためだった。
結婚相手としてやってきたチィチィ
当時、千葉市動物公園には推定20歳というメスのレッサーパンダがいた。極めて高齢だったので、繁殖能力があるかどうか分からなかったが、それでも静岡市立日本平動物園が風太を婿に出したのは、このメスが中国生まれだったからだ。もし子が生まれたら、遺伝的な多様性を残すことができる。
だが、高齢のメスは体が衰えて園内の動物病院に入院し、死んでしまった。婿に来たのに婿入りできず、独身のまま過ごしていた風太には、結婚相手として新たなメスが来園した。
長野市茶臼山動物園のチィチィだ。風太より半月ほど前に生まれた同い年。千葉には風太に遅れること約1年で移って来た。
結婚相手はどのようにして選ばれているのか。日本では静岡市立日本平動物園が核になって、全個体の血統登録をしており、ソフトで各個体に受け継がれた遺伝特性を分析し、偏らないようにペアリング相手を選んでいる。当時はまだこの分析ソフトは導入されていなかったが、風太とチィチィはそれぞれ先祖をたどり、分析したうえでお見合いさせた。
2022.01.11(火)
文=葉上太郎