「(こちらも)本気で挑んでるから! 本気でやってるから!」

「こんなに怒られます?」

 魂の叫びだった。ところが、反論されたと思ったのか、上沼の表情がにわかに険しさを増す。そして、舌の先を巻きながら言い放った。

「本気でやってるちゅってんねん、こっちも!」

「関西の女帝」の異名を持つ上沼の迫力満点の啖呵に、2人の目に涙が滲む。

 その後も上沼から容赦ない罵声が浴びせられた。

「一生懸命やってるのはわかるけど、好みじゃない」

「よう決勝に残ったなと思って」

 村上は今でもあのシーンをまともに見返すことができないと言う。

「最初はボケなのか、マジ切れなのか、ちょっとわからなかったんですけど、上沼さんに近い人に言わせるとマジらしいです」

 ステージを去るとき、村上が涙目で「こんなに怒られます?」とこぼした姿が印象的だった。

「ほんとそうじゃないですか。笑わそうとしてるのに、なんで……」

 

高校生でお笑いの世界に

 芸人とは、ときにどうしようもなく悲しい存在である。真剣に取り組んでも真剣に見えない。いや、むしろ、そこで真剣に見えたら、芸人としては二流だと言っていい。

 実際のところ、野田は高校1年のときから「本気」という表現では足りないくらい、お笑いの世界に己が身を捧げてきた。

 野田は2002年、高校1年生のときに『学校へ行こう!』というバラエティー番組の企画「お笑いインターハイ」において、ヤンキーに扮したショートコントで優勝している。現在は肉体改造し隆々とした身体つきをしているが、当時は痩身で、スキンヘッドだった。

 だが、そのときに得た自信を15歳の少年は持て余した。母親のチイが当時の息子を思い出す。

「小、中学校までは、明るくて、ものすごく社交的だったんです。ただ、高校生になって、暗い面も見せるようになりましたね。中学からバスケットをやっていたんですけど、それもやめちゃって。思いつめていたのかな、先生に突然、学校なんて行っててもしょうがないんで、吉本の養成所に入りたいんですって相談したり。焦ってる感じがしましたね」

2021.12.30(木)
文=中村 計