「準決勝までなら死なないですけど、決勝ですべったら死ねますから」
M-1の決勝の舞台を踏むには1回戦、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝と5度の審査を突破しなければならない(2020年はコロナ感染対策として3回戦をカットした)。
マヂカルラブリーはそれまで3度、準決勝で敗退していた。もともと芸人たちの間では評価が高く、熱烈なファンもいた。ただ、あまりにも個性的な芸風が足かせとなり、なかなか全国的な知名度を得られずにいた。
そんな中、結成11年目にしてようやくチャンスが巡って来た。4度目の挑戦で初ファイナリストとなったマヂカルラブリーは、全10組中、6番目にステージに立った。
最低点をつけた上沼恵美子
M-1の黄金色のスタジオセットは「都内にマンションが買える」ほどの予算をかけているという。その黄金の舞台で2人が選んだのは「野田ミュージカル」というネタだった。怪しげな風貌の野田が、意味不明な言動で所せましと舞台を動き回る。それに対しツッコミ役の村上は、突き放したような口調でその動きの意味を解説していく。
その間、会場には無数の「?」が浮遊していた。奔放なネタに笑いは起きるが、表層的な感は否めなかった。その困惑は、審査員7人の得点によりはっきりと表れた。
「86」「89」「88」「89」「88」「84」「83」。合計「607」。90点台が1人もいなかった。最後まで2人の得点を下回るコンビは現れず、最下位に終わった。
その順位以上にインパクトを残したのは、歯に衣着せぬ物言いが売りの審査員、上沼恵美子との丁々発止のやりとりだった。上沼は高校時代に姉と「海原千里・万里」という漫才コンビでデビューし、天才少女と呼ばれた元漫才師でもある。
上沼は審査員の中で最低となる83点を付けた。その理由を問われ、好感度などは気にせず、正直に点数を付けたと吐露。そして、「本気で挑んでるんで」と補足した。
そのコメントに対し、野田がすかさず反応した。
2021.12.30(木)
文=中村 計