自分の可能性をあきらめたくない人に届いてほしい

――そしてついに東京での公開です。先日の東京での試写会はたくさんの若い方が来場していて、異様な熱気に包まれていましたね。

 僕が広島での活動で積み上げてきたことに、刺激を受ける東京のクリエイターはきっと多いはずだと思っていました。でも、いざ東京での試写会の挨拶でみんなの前に出た時に、自分が東京の若者に冷えた目で見られるんじゃないかという恐怖に急に襲われたんです。東京という土地が人の熱を奪ってしまうということはあるのかもしれません。怖気づいた自分にハッとして、これではいけないと反省しました。そして東京でもがむしゃらな熱量を伝えていこうと改めて誓いました。

 結果、その場にいた200人ほどの人がまったく帰らないという現象が起きたんです。映画を観て、僕らの話を聞いてくれた人たちが、その場に残り語り合っている状況を目の当たりにしたんです。なかには泣いている人もいて。それくらい僕と同じようにみんなも鬱憤を抱えていたのだろうし、野望があって、純粋でいたくて、自分のことを認めてほしくて、でもくすぶりながらどんどん自分の可能性をあきらめながら生きるしかなくなっている。そういう人たちに届けたいと思っていたので、その光景を観た時に、東京でも純粋な熱を共有し合えるという確信に変わりました。

――東京でも「楽しい配給活動」に力を入れるわけですね。具体的に決まっている予定はありますか?

 尾道・広島で実践してみて、一番手応えを感じたイベントが「Dialogue」です。これは議長が気になっていることに対して参加者で対話をするというもの。対話なんて本来エンタメにならないと思うかもしれませんが、みんなで他者に向き合い、しっかり耳を傾けながら自分の言葉で語るという対話は、人間が生み出すもっとも小さな熱量の発露だと感じました。これはぜひ東京の人たちとも行いたいと思っています。

 ほかにも「映画作りで大切なことは熱量である」ということを軸に、映画制作の頭から最後までのプロセスがわかるようなトークイベントなども企画しています。映画の上映を観ていただくのはもちろんですが、みんなが体験できるイベントをたくさん考えているので、ぜひ体験・参加していただきたいです。

――映画体験をしてくれた人自身にも、何か明るい変化が起きたら素敵ですね。閉塞感を抱えた人たちが「明日から楽しいことしかないぞ!」と思えるような。

 今までは自分自身の成長や変化を見つめるだけで精一杯でしたが、『逆光』は役者やスタッフはじめ、関わってくれた人それぞれに変化が起こることを感じられた作品です。僕は今、誰よりも燃えていたくて、バカみたいな熱量をこのまま全力で届けていきたい。この映画を観て、ムーブメントに参加するということが、選挙のように、みんなの未来を変える一歩であったらいいなと本気で思っています。僕はこの映画にはその力があると信じています。

映画『逆光』

1970年代、真夏の尾道。22歳の晃は大学の先輩である吉岡を連れて帰郷する。晃は好意を抱く吉岡のために実家を提供し、夏休みを共に過ごそうと提案したのだった。先輩を退屈させないために、晃は女の子を誘って遊びに出かけることを思いつく。幼なじみの文江に誰か暇な女子を見つけてくれと依頼して、少し変わった性格のみーこが加わり、4人でつるむようになる。やがて吉岡は、みーこへのまなざしを熱くしていき、晃を悩ませるようになるが……。

キャスト:須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明ほか
監督:須藤蓮
脚本:渡辺あや
音楽:大友良英
https://gyakkofilm.com/
https://youtu.be/oMevE8st-hU

2021.12.25(土)
文=綿貫大介
スタイリング=高橋達之真
撮影=今井知佑