配給活動を通して見えてきた「本当に楽しい映画体験」
――自主配給での活動を通して得た気づきはありましたか?
映画製作だけではどうしても関われる人が限定的になるのですが、配給からは関われる人が多いんです。そこにはもっと可能性があるはずで、配給活動の先に新しいものが見えるのではないかという謎の核心を抱いていました。現にたくさんの方と知り合えて、みんなで楽しいことを共有できる場となったのは嬉しかったです。
僕たちが今回したかったのは、作り手と観客が言葉を交わしあったり、感情を分かち合える配給のあり方です。映画を鑑賞してもらうだけでも嬉しいことですが、それ以上の「本当に楽しい映画体験」をしてもらいたかった。実際に観てくれた方が何度もトークや展示に足を運んでくださって、顔と顔がわかる関係性になれた。それだけでも映画の価値を「鑑賞するもの」から「体験するもの」へと変えられたのかなと思っています。
――尾道では監督がリアカーでフリーコーヒーを振る舞いながら、観客と交流するということもされていましたよね。そこにも監督が目指した配給の形が詰まっていると感じました。
イベントをするとなると、集客・お金・効果が気になるものです。しかしフリーコーヒーはこちらが無償でコーヒーを提供し、お互いに飲みながら話すだけという、何にもとらわれない良さがありました。利益を最大化しようとする資本主義では得られない喜びを、この地で実現したかった。つまり人間が人間らしく生きる上で本当に大切な哲学を、自分なりのやり方で取り戻したかったのだと思います。これもリアカーをお借りできたり、いろんな方が力を貸してくれたおかげで実現したことです。
――作品という旗のまわりに面白い人がどんどん集まって、何か新しい動きが起こるのであれば、それは作品が良質ということ以上に価値があることかもしれないですね。
配給活動の一つひとつに情熱と愛情と人間味を加えていったら、こんなにも素敵なことが起きる。これには映画の可能性を改めて感じました。
――広島での配給活動を終えると、東京公開の準備よりもまず先に次回作の撮影を行っていましたね。そのスピード感にも驚かされました。
次回作は『blue rondo』という長編で、夜の渋谷を舞台にした男女のラブストーリーです。本当はこちらを『逆光』よりも先に制作するつもりで動いていたのですが、新型コロナウイルスの影響で撮影が難しくなり、温存していた企画です。『逆光』よりももっとパーソナルで激しい作品なのですが、熱量が高まった今のタイミングでやりきれてよかったと思います。こちらも期待していて下さい。
2021.12.25(土)
文=綿貫大介
スタイリング=高橋達之真
撮影=今井知佑