しかし、曲を聴き始めると、深みにハマるトラップが、いくつも仕掛けられているのだ。この《うれしはずかし朝帰り》で言えば、まずは吉田美和の冒頭の雄叫びである。

 イントロ9小節目から始まる「♪ウォーウォーーーウォウウォーーーーヤヤヤヤヤー!」。録音音源にもかかわらず、抜群の声量で歌われていることが一発で分かる。さらに音程も、一気に上のCまで上がるので、かなりの高音だ。まさに雄叫び。

 「歌う」ではなく「吠える」感じ。島津亜矢は「歌怪獣」と評されるが、「歌う」ではなく「吠える」ほどのフィジカルを「歌怪獣」の定義とすれば、80年代を代表する「歌怪獣」が玉置浩二で、90年代のそれは吉田美和となろう。

 

「90年代」と書いて「ドリカム」と読む

 「歌怪獣」性に加えて、《晴れたらいいね》のような技巧的な転調や変拍子、コードとメロディの関係が複雑な《決戦は金曜日》(92年)、さらには歌詞に「カラックス」「ジェリー・アンダースン」などの固有名詞が出てくる《go for it!》(93年)など、ドリカムの曲には、ヌポッと深みにハマるトラップが、いくつも埋め込まれている。

 「ルックスや曲名、ユニット名がもたらす間口の広さ」と「歌怪獣性、音楽的技巧性、持って回った歌詞がもたらすトラップの深さ」。この「間口の広さ×トラップの深さ」を乗じた面積が異常に肥大化していた「外来種」。それが当時のドリカムではなかったか。

 もう少し分かりやすく言えば、「好きなミュージシャン」として挙げても、デートのときにクルマの中でかけても、カラオケで歌っても、ビギナーにもマニアにも喜ばれる「決して外すことのないブランド」としてのドリカム─。

 と、少々客観的な物言いをしているが、実は私もドリカムを愛聴していた。正直《うれしはずかし朝帰り》や《晴れたらいいね》は、割と聴き流していたのだが、94年の《すき》、95年の《サンキュ.》(語尾のピリオドに注目)は、本当によく聴いたし、カラオケでも歌った。

2021.11.23(火)
文=スージー鈴木