2021年9月8日(水)にニューシングル『嘘じゃない』を発売した崎山蒼志。新曲は大人気TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』の第5期エンディングテーマに抜擢され、YouTubeで公開されているミュージックビデオは500万回以上再生されるなど大きな反響を呼んでいる。

 15歳の迸るような情動とともに、衝撃のデビューを遂げ、それから3年。まだ19歳ながら、その音楽性、歌詞の奥行は多くの人の共感を集めている。

 “崎山蒼志”はいったいどんなカルチャーを栄養源にして、今の崎山蒼志となったのか。これまで摂取してきた時代時代の音楽や本を聞いた。

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①the GazettE 『STACKED RUBBISH』

 音楽の原初体験という意味では、やっぱり母親ですね。2,3歳のころから僕は音楽番組が好きだったみたいで、母親と一緒によく見ていたんですよ。母ももともと音楽が好きで。遡るとデヴィット・ボウイとかカルチャー・クラブとかキュアーとかよく聴いていたそうで、自然とそういう音楽が流れる環境にいました。

 確かミュージックビデオだったと思うんですが、ある時たまたま「the GazettE(ガゼット)」が流れて。母親がビジュアル系とかゴシックロックとか好きだった影響もあると思うんですが、一発で刺さったというか。もう自然に大好きになりましたね。

 中でも、「REGRET(リグレット)」が入っている『STACKED RUBBISH』はもう好きな曲ばかりという感じですね。

 幼稚園とか小学校のころから「なんじゃこれは?」と心が震えるような曲が好きで、それは今でも変わらないですね。そんな曲との出会いを求め続けています。

②KANA-BOON 「盛者必衰の理、お断り」

 そこから、だんだん他のビジュアル系バンドにハマっていきましたね。ガゼットさんの影響で4歳とか5歳からギター教室にも通うようになって。もちろん最初は聴いている曲をカバーしたりとかって感じなんですが「もしかしたらオレ、作れるかもしれない」ってあるとき思ったんです。

 小学校3、4年生ぐらいには何となくギター弾きながら口ずさんだり、そんなの録音したりしてましたね。そんなこんなしているうちに詞も書いてちゃんと曲を作ってみよう、となって。ギター教室の仲間でバンドを組んでいたんですが、そのオリジナル曲として作ったのが最初の曲です。

 ちょうどそのころ自分のお金というか意思で初めてCDを購入したんですが、それがKANA-BOONの「盛者必衰の理、お断り」でした。当時から、音楽そのものも好きなんですけど、メイキング映像とか、PVとかジャケットとか、音楽のディティール部分も気になるタイプで。1つの世界観として作品を捉えるようにしているし、自分もそんな作品を作っていきたいと思っています。

③中村文則 『銃』

 中学生になるまでは、歌詞それ自体をあんまり意識することはなくて。「音楽は音楽」と歌詞を意識して楽曲を聴いたことは無かったんです。それから歳を重ねるにつれ歌詞への意識は高まってきていて、今は自分が書くという意味でもかなり意識的になっています。

 そのきっかけが中村文則の『銃』との出会い、純文学との出会いだったように思います。これも母の影響なんですが、母に「この本は中学校一年生だと内容的にちょっと難しいかも」と言われて逆に「読んでやるし」みたいな(笑)。

 もう衝撃でしたね。文章だけの表現でここまで人間を描けるんだ、感情を揺さぶることができるんだ、と。こういう表現を歌詞の世界でもやってみたらどうなるんだろう。バイブスというか情動の赴くままに歌詞を書くとはどういうことなんだろう、と感じました。今でもそれは考え続けていますね。

2021.09.14(火)
文=CREA編集部
撮影=平松市聖