前項で書いた「シン・EPICソニーへの変貌」をもう少し詳しく追うために、ドリームズ・カム・トゥルーの曲をもう1曲取り上げる。
発売は90年の2月。火蓋が切られた90年代を席巻することになるドリカムの初ヒットは、この《笑顔の行方》である。44.6万枚だから堂々たるヒット。この曲でドリカムに巡り合ったという人は多いはずだ。
《笑顔の行方》の奇妙なコード進行
TBS系ドラマ『卒業』(90年)の主題歌。中山美穂、仙道敦子、河合美智子がパジャマ姿で、この曲に乗せて体操をするタイトルバックを、憶えている人も少なくないだろう。
中川右介によるフジテレビ系月曜9時ドラマ、いわゆる「月9」の歴史を考察した労作、その名も『月9―101のラブストーリー』(幻冬舎新書)には、『卒業』と同クールの「月9」=『世界で一番君が好き!』のプロデューサーだった大多亮がドリカムに主題歌を発注しようとしたというエピソードが紹介されている。
しかし、ドリカムの新曲タイアップが「3日前に」TBSの『卒業』で決まってしまったため、LINDBERG《今すぐKiss Me》(90年)に代えたとのこと。ちなみに《今すぐKiss Me》は《笑顔の行方》を超える61.0万枚の大ヒットとなる。
さて、そんな《笑顔の行方》。今回改めて聴き直して、とても驚いた。これは凝っている。いやもっと直接的に言えば、実に奇妙なコード進行の曲なのだ(奇妙すぎて、ここからのコード進行解析には、別の捉え方もあるかもしれないことを、先に断っておく)。
キー【F】と【 B♭】・【D】の間でひたすら転調を繰り返す。このこと自体は90年の段階で、それほど奇妙なことではないが、キー【F】・【 B♭】・【D】それぞれのパートで、決して主和音に落ち着かないのだ。これは相当変わっている。「♪同じ笑顔はできなくても」の「も」のコード【D】で一瞬落ち着きかけるが、すぐにせわしなく【F】に転調する。
2021.11.23(火)
文=スージー鈴木