美食を支える職人技も福井に結集

 食通たちを魅了する「技あり」の名店の多い福井県。

 実は、料理人たちが手にする包丁も、素晴らしい技が息づいています。

 約700年もの歴史を誇る「越前打刃物」は、卓越した鍛造技術によって実現される鋭い切れ味が真骨頂の伝統工芸品。

 アボカドも種まですっと切れるといい、世界各国の巨匠シェフたちも愛用する逸品なのです。

 現在、約40名の職人さんが活躍する「タケフナイフビレッジ」に工房を開く黒﨑優さんは、プロの料理人から注文が殺到する人気職人のひとり。

 「ほかの産地と違って、たくさんの師匠から技を学べるのが越前の特長。モノ作りに対して自由な雰囲気もあります」と語ります。

 料理人にとって、調理の現場はまさに晴れ舞台。

 だからこそ、切れ味はもちろんのこと、柄のデザインにまでこだわった黒﨑さんの包丁は、これまでのものとは一線を画す美しさ……。

 その凜とした輝きに、手にした瞬間、誰もが魅入られることでしょう。

 なお、「タケフナイフビレッジ」は、越前打刃物の伝統を受け継ぎながら、新しい刃物作りにも取り組む13社が、共同で運営する工房兼複合施設。

 工房見学ができるほか(職人さんの多い平日がおすすめだそう)、資料館、体験教室などもあります。

 ショップでは、各工房が手がけた製品の一部を購入でき、タケフナイフビレッジ・オリジナル包丁は名入れも可能。

 伝統を大切に守りながら、職人さんたちが切磋琢磨して、新しい価値を生み出す……。

 その気風は、今から約1500年前の古墳時代にまで起源をさかのぼる、越前漆器の世界にも流れています。

「越前は、気温20℃前後、湿度約80%という、漆器作りに最適な気候に恵まれています」と教えてくださったのは、山嘉商店・山田博之さん。

「漆器作りに用いる道具のなかには、越前の優れた打刃物があり、さらに永平寺の精進料理文化、鯖街道で結ばれた京都の食文化とのつながりも深い。福井には、ほかの産地にはない好条件が奇跡のように揃ったのです」

 最近では、日本上陸50周年を迎えるゴディバとのコラボにより、漆器仕立ての「バロタン(チョコレート箱)」の制作にも挑戦。

 “ゴディバはもっと日本を知りたい” という取り組みの一環で、お気に入りのチョコレートを大切に使いたい一箱に詰める……。

 サステナビリティも意識した、新しい食文化を生み出す試みでもあるのです。

 そんな越前漆器の奥深い世界を知るなら、鯖江市の「うるしの里会館」へ。

 各工房の漆器を豊富に取り揃えているほか、「絵付け体験」「沈金体験」なども楽しめます。

 また、その周辺にある作り手さんのショップもぜひ訪ねてみたい。

 「うるしの里会館」のすぐそばにあるおしゃれな空間で、華やかな漆器にふれられるのが「漆琳堂」。

 寛政5年(1793年)から漆器作りを続ける老舗です。

 店内には、職人技が結晶した華麗な逸品から、今のライフスタイルに合わせて7代目が立ち上げた新ブランド「aisomo cosomo」、「RIN & CO.」など、可愛くて日常で使いたくなる器も展示・販売。

 漆器の新たな魅力に出会うことができます。

タケフナイフビレッジ [越前市]

所在地 福井県越前市余川町22-91
電話番号 0778-27-7120
営業時間 9:00~17:00
定休日 無休
アクセス 福井駅から車で約35分、JR武生駅から車で約15分
https://www.takefu-knifevillage.jp/

うるしの里会館 [鯖江市]

所在地 福井県鯖江市西袋町40-1-2
電話番号 0778-65-2727
開館時間 9:00~17:00
休館日 第4火曜(祝日の場合は、翌日)
アクセス 福井駅から車で約30分、JR鯖江駅から車で約15分
https://www.echizen.or.jp/urushinosatokaikan

漆琳堂 [鯖江市]

所在地 福井県鯖江市西袋町701
電話番号 0778-65-0630
営業時間 10:00~16:00
定休日 不定休
アクセス 福井駅から車で約30分、JR鯖江駅から車で約15分
https://shitsurindo.com/

2021.10.15(金)
写真=平松唯加子、上田順子
取材・文=矢野詔次郎