また「YAMANOTE」の拡大に大きく貢献したのが、日本からの人材と材料です。人材で言えば、日本の某大手パンメーカーで長年修業された方が中心となりパンを作る、セントラルキッチン方式を導入しています。その方が現地の職人たちを指導し、どの店舗で食べても美味しいパンを提供できる体制を整備していきました。店舗を拡大していくにあたって、どの店舗でも同じクオリティのパンが食べられるというのは非常に大きなアドバンテージになります。

「ヒト・モノ・カネ」が揃ってこそビジネスは成功する

 素材について言えば、日本の大手商社出身のゼネラルマネージャーが先導して、ニップン(旧日本製粉)がブレンドした小麦粉を日本から取り寄せていたそうです。現地の小麦粉を使えば販売価格を3分の1に抑えられるのですが、あえて日本製の小麦粉を使うことでふっくらソフトな仕上がりになるのです。これはアラブに限らず、どの国で事業を展開するうえでも当然かつ重要な点ですが、「ヒト・モノ・カネ」の3点がきっちりと整い根気強くやればビジネスは成功します。

「YAMANOTE」の例で言えば、現地の王族が日系の銀行や老舗のパン屋で修業した職人と組み、わざわざ日本から取り寄せた小麦粉やお菓子、アラブ側と日本側双方からの投資とこれら3つが合わさることで、このような大きな成功をおさめることができたと言えるでしょう。「YAMANOTE」が成功できたのは、アラブでは珍しい日本式パンを売り出しただけではなく、「ヒト・モノ・カネ」の3つが揃った盤石のビジネススキームが構築されていたからこそだったということを強調しておきます。

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「YAMANOTE」の次の狙いは、湾岸アラブ諸国における更なる事業拡大だそうです。人口3400万人を抱えるサウジアラビアには現在未出店なので、マーケットの大きいサウジアラビアで成功できるかどうかが今後のカギになってきます。さらに言うと中東だけでなく日本に「YAMANOTE」ブランドを逆輸入する野心もあるそうで、今後が楽しみです。

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2021.07.07(水)
文=鷹鳥屋 明