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 この日本式パンですが1個200~450円、と価格設定としては同じ値段を出せばケバブを食べられる現地の物価から考えるとかなり割高かもしれません。にもかかわらず、人気メニューとして売れているわけですから、それだけ「日本のパンだから買う」という消費者が多いということです。日本でも外資のパン屋さんは少し高めの値段で売られているように、アラブにおける日本式パンも同じような立ち位置なのでしょう。遠くサウジアラビアからわざわざ美味しい「YAMANOTE」の食パンをお土産に買いに来るケースもあります。「YAMANOTE」は中東に展開した日本式の飲食店のなかで成功した事例と言えます。

 

きっかけは王族の奥様が始めた小さなパン屋

 この「YAMANOTE」というパン屋は、一見、名前から日本企業のようですが、実は一部に日本資本が入っているだけで実質的にはアラブ人の企業です。そもそも湾岸アラブ諸国において外資100%で事業をするのは一部では可能ですが、業種は限られています。いまでも簡単に外資100%で事業ができるのは中東各国にある「フリー・ゾーン」と呼ばれる経済特区の中などです。これはかつての中国における深センや珠海のような外資導入の窓口となる存在と言っていいでしょう。

「YAMANOTE」の経営権はもちろんアラブ人側にあります。そして「YAMANOTE」の設立に関わり経営権を持っているのはドバイの王族です。

 もともと「YAMANOTE」はスヘイル・アル゠マクトゥームというドバイの王族と、奥様ハムダさんの夫婦2人だけで2013年に日本式パン屋のスタンドを開業したことから始まりました。開業のストーリーをスヘイル氏とハムダさん、日本側のオーナー代理に聞いた話によると、最初は奥様のハムダさんの父親の投資会社の支援を受け、合わせて日本の商社の支援も受けて20坪程度の小さなスペースでパンを販売するところからスタートしました。パン作りのノウハウは、日本のサガミベーカリーより指導を受けたそうです。

2021.07.07(水)
文=鷹鳥屋 明