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 実は、初期の計画では、お菓子やケーキ類を作ろうとしたのですが、原材料輸入が規制やコスト面から難しく、パンを作ることに切り替えました。開店当初に販売していたのがチーズクリームデニッシュ、さきほど紹介した焼きそばパン、そして牛肉のソーセージパンだったそうです。

 

 日本式のパンが徐々に人気になってきた2014年頃から、パンと合わせてOEM(相手先企業の商標をつけて販売される完成品や半成品の受注生産)で日本の製菓メーカーから輸入したラングドシャやクレープロールの販売も始めました。このラングドシャが現地でヒットし、王族の結婚式の引き出物などに使われるようになったのです。この頃はまだラングドシャがアラブでも珍しかったので、そういったタイミングで展開したことがヒットの原因だったと言えます。このラングドシャ、日本で言えば「白い恋人」のようなお菓子が現地で大人気になったと想像していただければわかりやすいと思います。適切な価格設定と食べやすい量で一気にラングドシャを展開できたのは、中東では「YAMANOTE」が初めてでした。

 その後、2016年には世界最大級のショッピングモールである「ドバイモール」に2号店を出店しています。テナントは8人掛けの小さなカフェスペースでしたが、2号店も人気を集め、同じ年にドバイ国際金融センターという日本でいえば日本橋兜町や北浜のような金融街に3号店をオープンします。

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ターニングポイントになった「ガルフ・ジャパン フードファンド」

 とんとん拍子で3号店までオープンした「YAMANOTE」に、ターニングポイントが訪れます。2017年にみずほ銀行と農林中央金庫などが共同で、日本食文化をアラブに広めることを目的とした「ガルフ・ジャパン フードファンド」という400億円規模のファンドを作るのですが、そのなかの投資先のひとつとして「YAMANOTE」が採択されることになったのです。また、みずほ銀行との取引が生まれることによって、様々な日本企業との取引がスムーズに進むようになりました。その後、2018年にはアブダビに4号店をオープン。2020年には8人掛けテーブルとチェアしかないテナントだったドバイモールの店舗を大型店舗に切り替えて、30人以上が入る規模に拡大しました。その勢いのまま様々な場所に店舗を拡大し続け、現在ではドバイを中心にアラブ首長国連邦で11店舗を展開するまでになっています。

2021.07.07(水)
文=鷹鳥屋 明