相手に伴走しながら一緒に考えていくことが本当の協力のあり方
サヘル 私はこれまでに多くの国を訪れましたが、貧しい地域でも、出会った子どもたちの瞳は、私の数百倍キラキラしていて、将来の目標をしっかり持って、真剣に今日を生きているんです。
私たちは平和の中ですごく守られていて、「これは明日でいいや」って普通に明日を生きていますが、彼らにはその明日が来ないこともありうる。明日のために生きるのではなくて、今日のためにどれだけ真剣に生きるかということを、私は旅先の子どもたちに気づかされましたね。小森さんはそういう経験はありませんか?
小森 ありますね。自分の価値観やものさしは絶対ではなく、異なる環境、異なる文化の人と接することで、さまざまな気づきが生まれ、相手の価値観やものさしが分かる。それが自分にとってのmissing pieceかもしれなくて、それを知ることが自分の許容範囲というか幅を拡げるひとつの経験になると思います。
今、国際協力の仕事をしていてすごく思うのですが、国際協力はもちろん相手の国やその国にいらっしゃる人のための仕事なんですけど、それによってその仕事に関わっている私たち日本人もすごくいろんなことに気づかされるんです。相手国に対する理解もそうですし、国際情勢もそう。さらには自分自身の国についてもそうです。
日本にはこんなにすばらしい技能や技術や製品、たくさんの宝物があって、まだまだいろんな国の人々と共有できるものがあるって。異国や異文化、新たなものに対する感受性を高めることが、まだまだ不完全な自分自身を成長させるためには必要だと、すごく感じさせられます。
サヘル でも、支援のあり方って本当に難しいですよね。私はインドネシアの隣の東ティモールに暮らしているアナという女の子の学費を支援しているんですが、サポートするからにはその子と直接向き合いたいと思い、実際に東ティモールに行ったんです。
アナの夢は学校の先生になることですが、彼女が住む地域はとても貧しくて、子どももあまり学校に行けないんです。アナも毎日遠く離れた水源まで水を汲みに行かなくてはいけない。
当時145センチくらいのちっちゃい子が何キロも歩いて、重たいバケツで水を汲んでくるんです。それで思わず、「アナ知ってる? 世界では普通、蛇口をひねると水が出てくるんだよ」って言いかけてしまって。でも、あ、ちょっと待って、これって果たして本当に言うべき言葉なんだろうかと悩んでしまいました。
小森 あぁ……。
サヘル なぜならアナたちは、自分たちがこれが普通と思って生活をしているわけなんです。そこに私の普通を押し付けても、それは決してハッピーなことではないですし、傷つけてしまうんじゃないかと思ったんです。
だから、サポートってなんなんだろうって。支援って一歩間違えたら支配にしかならない、思いどおりに彼らを動かそうとしちゃいけないし、ましてや、物乞いをする子にお金を渡す事は、本当は一番やってはいけないやり方だと。JICAさんでも協力の期間を決めていると思いますが、それはすごく大切だなと思うんです。私たちがそこに入ってずーっとサポートしてしまうと、彼らは自分が何もしなくても日本から来てくれたチームがずっと支えてくれると思ってしまいます。
小森 うんうん。
サヘル 人が生きていくためには、魚を渡すのではなく、こうやって魚を釣るんだよと、やり方を教えるほうが大切。期間を決めて魚の釣り方や畑の耕し方を教え、その期間を終えたらこちらは身を引く。その国の人たちにちゃんと自分たちで回してもらわなければ意味がないと思うんです。私たちがやりすぎたら絶対ダメなんだということを、痛感しているんです。
小森 本当にそうですね。私も以前、アフリカのある村に小学校を作るプロジェクトを進めていた時、現地に行って実際の状況を見たら、学校に行けていなくても、子どもたちはすごくイキイキとしていたんですよ。
ただ、彼らだって、学校に行けばもっと楽しいことがあるかもしれない。それを押し付けるのではなく、新たな可能性として相手に示して、「だったら学校に行ってみたい」って思ってもらえるように、丁寧なコミュニケーションをとっていくことの大切さを、特に現場に行くと感じます。
サヘル まずは相手の状況を知り、相手の話を聞くということですね。
小森 はい。それに加えて、何か新たなプロジェクトを進める時には、相手が抱えている問題が何なのかを丁寧に読み解き、それに対してどういうソリューションがあるのかを一緒に考える。日本ではこういうやり方があるよというのはもちろん示しますが、そのうえでどういう道筋で課題解決に向かっていくかを、相手に伴走しながら一緒に考えていくことが必要だと思います。
一つのプロジェクトが終わった後、それをキャリーしていくのは相手の国の人々ですので、あくまで主役は彼らなんですよ。相手に寄り添い、そのうえで本音をぶつけ合うと、信頼関係が生まれてくる。そこが国際協力の仕事の面白さでもあるのかなと思います。
サヘル ぶつかり合う火花ってみんな恐れがちなんですけどね(笑)。今の小森さんのお話って、国際的な支援活動に限らず、日本の中でも仕事や対人関係で悩んでいる人にも良いヒントだと思います。同じものを見ているからといって必ずしも同じ感性で見ているわけではないから、同じように見えているとはかぎらない。
信号機の色がいい例で、私から見たら緑だけど、他の人は青って言います。同じように物事だって、違った角度から見てみたら違うものに見えるかもしれませんよね。相手はどんな視線、どんな視点で見ているんだろうと考えて、そこにちゃんとフィフティ・フィフティで歩み寄ることがすごく大事なんですよね。
小森 相手の意見や声に耳を傾け、自分も声に出して意見を伝える。その大切さですね。
2021.07.16(金)
取材・文=張替裕子(giraffe)
撮影=平松市聖