歌舞伎とはまた違った映像ならではの立廻りを

〈 これから始まる幸四郎版の『鬼平』は2024年5月に劇場公開される映画と、配信による連続ドラマ5本が予定されている。脚本は大森寿美男、監督は映画を杉田成道、ドラマは山下智彦という布陣だ。〉

 映画は叔父も撮られていますが、配信というスタイルはこれまでの『鬼平』にはなかったことです。令和になって一気に普及した新たな伝達手段を通じて、より多くの幅広い層の皆さんにこの作品を知っていただけたらと思います。映画も配信も6作品すべて、そのひとつひとつを大切に鬼平になりきることに集中していきたい。

 杉田監督とご一緒するのは初めてですので非常に楽しみです。クランクインまでにしっかりと勉強して、どんな状況でも対応できるように万全の準備をして臨むつもりです。山下監督は『妻は、くノ一』、『陰陽師』でもお世話になっていて、情熱的でありながら繊細なお仕事をなさる方というイメージがあります。信頼できる大好きな監督さんと長谷川平蔵として再会できるのは非常に幸せです。

 それから楽しみにしているのが立廻りです。というのも時代劇で最近演じた役には、刀を使う場面がほとんどありませんでしたので。歌舞伎とはまた違った映像ならではの立廻りを思う存分やってみたいですね。馬の扱いや江戸弁のせりふなど含め、平蔵に必要とされる技術を磨いて取り組みたいと思います。

 

自分をがんじがらめにすることから始めたい

 撮影が実際に始まるまでにはさまざまなことをインプットしていかなければと思います。歌舞伎は古典ばかりでなく新作や長い間上演されなかった作品を復活させることもあるのですが、自分はそうした折に心がけていることがあります。それは古典を紐解く、ということ。現在、形として残っている古典の演出がなぜそのような形になったのかルーツを探り、先人が辿った道を自分も一から辿っていくのです。

 その過程には結果として選択されずに現在は行われていないやり方も存在します。そしてそこには必ず理由がある。そうしたことをきちんと調べもせずに安直に進めてしまうと、同じ轍を踏んでしまう。また自分で考えて斬新だと思ったアイディアが実は別の古典の作品ですでに先人たちがやられていた、などということもあるのです。

2021.06.07(月)
取材・構成=清水まり