郷土料理こそがイタリア料理の真髄!

 イタリア各地方の郷土料理や、マンマが工夫して作った料理を研究している齊藤奈津子さんが、家でもできる簡単なイタリア料理をご紹介します。


イタリアで春と秋に訪れる「そら豆」を食べる伝統的な習慣とは?

 5月から6月の初夏を代表する旬の野菜「そら豆」。

 イタリアではそら豆は「ファーヴェ」と呼び、日本と同様にこの時期はスーパーや市場などで良く目にします。

 ちなみに5月1日はそら豆を食べる日。この日は祝日で、ローマ地方を中心にそら豆を食べる習慣があります。これは、古代ローマ時代から伝わる伝統的な習慣なのだとか。

 どのように食べるかというと、なんと生!

 そら豆は収穫後2、3日で鮮度が落ちる為、採れたてをそのまま生で食べるのです。そのそら豆に合わせるのがイタリアで最古のチーズと呼ばれる羊の乳で作るチーズ「ペコリーノ・ロマーノ」。ローマっ子たちは、それに地元のワインを合わせ、旬のそら豆を楽しみます。

 ちなみイタリアのそら豆は日本のそら豆よりも長さが長く、枝豆の倍くらいの小粒な豆がびっしり入っています。

 私も最初、生で食べると聞いて、「え! 苦そうだな、、」と思いましたが、実際食べてみるとシャキっとした歯応えにほんのり豆の甘み、気になっていた豆のエグ味はほとんどなく新鮮さが伝わる感じ。

 勿論、茹でたり焼いたりしても美味しいですが、何より塩気の利いたペコリーノチーズと生そら豆の相性が抜群で、すっかりクセになってしまいました。昼下がりだとビールも合いそうです。

 日本では空に伸びることから「そら豆」と可愛らしい名前が付いていますが、ヨーロッパはというと、フランスでは「フェーヴ」と呼び、空豆の形が胎児の形に似ていることから「命のシンボル」とされていたそうです。

 一方イタリアでは、そら豆の白い花弁の黒点模様が死を連想させるとのことで「死の象徴」とされ、葬儀などに使われていたそうです。隣の国なのに「生」と「死」を表していることに驚きです。

 11月の秋、イタリア人にとって非常に大切な日があります。11月2日の「死者の日(日本でいうお盆のような日)」。かつては死の象徴とされていたそら豆にちなんで、トスカーナ地方などの中部イタリアでは「ファーヴェ ディ モルティ(死者のそら豆)」という、そら豆の形をしたクッキーのようなお菓子を食べる習慣があり、死者を追悼します。日本のおはぎのような感じですかね。

 この「死者のそら豆」は「ドルチ デイ モルティ(死者のドルチェ)」とも呼ばれ、種類は地方によって様々。そしてこの不気味なネーミングからは想像も付かないほど、どれも美味しいのです。

 ちなみにミラノ地方はチョコレートやシナモンなどが入った「死者のパン」、シチリア地方は骨を彷彿させる「死者の骨」、ナポリ地方は棺桶の形をしたヌガー「死者のトローネ」など、地方ごとに形も味も全く違う「死者のドルチェ」を食べます。郷土愛が強いイタリアらしい話です。

 いつか全部の「死者のドルチェを」コンプリートしてみたいです。

 さて、話は少しそれましたが、日本でも人気の旬の野菜・そら豆。今回は、そんなそら豆を使った簡単なスパゲッティをご紹介します!

2021.06.05(土)
文・写真=齊藤奈津子
撮影=佐藤 亘