大嫌いだった自分の声
──松本さんは声も魅力的で、2001年の人気ゲーム『FINAL FANTASY X』のリュック役や、2004年に『蒼穹のファフナー』 遠見真矢役など、女優業で培った演技力を生かして声優としても活躍しておられます。でも、その声がずっとコンプレックスだったとか。
松本 はい、大嫌いでした。「声が浮く」と言われてオーディションに落ちたこともありますし、「そんな声で女優になりたいの」と言われたこともあります。「この声だからオーディションに通らないんだ」と思って、わざと声帯を傷つけて声をつぶしたこともありました。
でも、ある時ふと、「私がオーディションに落ち続けるのは、この声のせいだけではない」と気づいたんです。
結局求められないのは私自身に魅力がないせいで、私自身に魅力があればコンプレックスも魅力になるんですよね。声は確かに足を引っ張る要因のひとつだったかもしれませんが、肝心なのは演技力や人間力を高めることだと思い直して、コツコツと積み重ねてきたら、「あざとかわいい」とか、声がおもしろいと思ってもらえる時代のタイミングがきた感じです。
人のせいにする暇があったら自分を磨く
──ストイックに待ち続けるって、結構しんどくないですか。
松本 どうでしょう。それしか自分が進みたいところへ行ける道がなかったので、しんどいのは当然だと思ってました。なにもしないで待つのではなく、自分のすべきことを準備し続けて待つのは、とてもいい鍛錬になりました。今、この先どんな困難が来てもこの時以上はないと思ってやれています(笑)。
私が主演をやる日が来るかどうかも分からないし、そもそもそんな日がくる気配は微塵もなかったんですけど、もし仮にパラレルワールドがあったとして、私が主演ドラマとか主演映画とかやるような世界があったとしたら、そこにいられる人なのかどうか、というのは常に意識していました。現実世界では負け続けの人生でしたが、パラレルワールドの私は、主役を演じられる人間でいる。そういう魅力を持ち続けている。そんな妄想を支えに待ち続けました。
2021.05.15(土)
取材・構成=相澤洋美