施設間で価格差の大きい「治療費の闇」

 現在43歳のAさんは28歳で結婚し、仕事にまい進する日々を送っていた。子どもを望むようになったのは自身の海外赴任が明けた32歳のとき。しかしなかなか妊娠せず、34歳で都内の不妊治療施設に通い始めた。以降、39歳までに行った治療は人工授精4回、体外受精は10回以上。気づけば治療に費やした総額は800万円に上った。

 Aさんは振り返る。「治療の過程で2度ほど初期流産したのですが、納得できなかったのは、流産処置には保険適用されるのに、不妊治療は自由診療のため医療機関側が提示する“言い値”に従って払わざるを得なかったこと。当時は所得制限のため助成金も受け取れず、国は子を授かる前の女性には冷たいと身をもって感じました」

 Aさんは体外受精では結果が出なかったが、その後40歳と42歳のとき自然妊娠で2人の子どもを授かり、担当医を驚かせた。

 心身の苦痛、時間的苦痛、経済的苦痛の三重苦を伴う不妊治療。なかでも庶民感覚を大きく逸脱した高額な治療費は当事者の身に重くのしかかる。不妊治療は一般不妊治療と言われるタイミング法までは保険が適応されるが、それより高度な医療が必要になる人工授精や体外受精は保険適用外だ。

1回の体外受精一式にかかる費用平均額は約50万円

 しかし、政府の少子化対策の一環として、今年1月には不妊治療の助成金制度を拡充。体外受精・顕微授精に対し1子につき30万円を6回まで支給し(40歳以上43歳未満は3回まで)、所得制限は撤廃された。2022年4月からはいよいよ体外受精も保険診療の対象となる。

 実際、不妊治療にはどれほどの費用がかかっているのか。今年3月末、国内に622ある不妊治療施設を対象に「不妊治療の実態に関する調査研究」の報告書が厚生労働省から公表された(回収率63%)。それによると、1回の体外受精一式にかかる費用平均額は50万1284円、価格帯のボリュームゾーンは40万~50万円。しかし価格差は大きく、20万円以下の施設もあれば、なかには90万~100万円を請求する施設もある。

2021.05.19(水)
文=内田朋子