しかし、治療費の高い都心部の医療機関で治療を受け、共働きのため所得制限に引っかかり助成金を受け取れなかったり、あるいは助成金では到底賄いきれない費用を払い続けてきた夫婦にすれば、それこそ悪平等を今まで被ってきた。そうした夫婦にとって、不妊治療の保険適用は長年の悲願といえる。

 また、単に治療費の問題が解消すればいいというわけではない。現在不妊治療中のBさん(44歳)はこう話す。「都心部ゆえに価格が高いのは仕方ないことではあります。それでも納得できないのは、今受けている治療が自分にとって最適な治療法なのかが分からないまま、高額な治療費を払い続けている現実です」

 

施設ごとに異なる「治療内容の闇」

 東京都内在住の44歳のBさんは現在不妊治療真っ最中だ。治療のスタートは42歳。妊娠するにはかなり厳しい年齢であることを自覚し、とにかく効率よく適切な治療を受けたいと願った。しかし、いざ通院先を選ぼうにも、施設ごとに手技や検査内容も違えば、全施設が治療成績を公表しているわけでもないため、どこを選んでよいか分からない。

「結局口コミを頼りにクリニックを選んだのですが、私の場合、卵子はある程度取れるのですが、受精させてもなかなか移植に適した胚まで育たない。思い切って転院したら転院先で夫に精索静脈瘤が見つかり、精子の質と量の低下に繋がっている可能性があると言われました。ここに至るまでに2年。卵子の老化もあると思いますが、不妊症の原因の半分は男性側にあると言われています。最初の施設で夫の検査もしてくれていたら無駄に時間とお金をかけずにすんでいたかもと思うと、複雑です」(Bさん)

 技術格差も問題だ。たとえば、不妊治療の要である受精卵の培養。卵子と精子を合わせて受精卵を作り育てるのは胚培養士の仕事だが、「正直、施設間や個々の胚培養士の技術差はかなり大きい」と生殖医療専門のコンサルティング事業を立ち上げ、複数の施設で胚培養の指導にあたる川口優太郎氏は打ち明ける。

2021.05.19(水)
文=内田朋子