東京都心部のオフィスの空室率が急上昇中だ。三鬼商事の発表によれば、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィスビルの空室率は、2021年2月時点で5.24%、貸手と借手のどちらが優位に立てるかの分水嶺といわれる5%の壁を軽々と突破してしまった。
リーマンショック時の上昇をはるかに上回るペース
問題なのは5%を超えた空室率の数値ではない。実は近年でも東京都心部で空室率が9%台になったことがある。リーマンショックとその後の景気低迷による空室率の上昇だ。リーマンショック前の2007年の11月くらいまで、都心5区の空室率は2.49%と堅調だった。ところが、リーマンショックが顕在化する年明けから空室率はするすると上昇をはじめ、1年後の2008年11月には4.56%と1年間で2.07ポイントもの急上昇となる。その後も景気の悪化に伴う空室率の上昇には歯止めがかからず、2010年6月には9.14%に跳ね上がる。
今回の上昇は昨年2月の1.49%からの上昇幅で3.75ポイント。リーマンショック時のをはるかに上回るペースで上昇している。そして問題なのは、空室率上昇の原因がリーマンショック時のような景気悪化によるものというよりも、コロナ禍によるテレワークの浸透とその継続にあることだ。
主因が景気悪化ではないゆえに、回復に転じるかどうか疑問
景気悪化が主因であれば、コロナ後の景気回復に伴ってオフィス需要は再び盛り上がり、空室率は低下していくのはこれまでのマーケットの動きから容易に想像できる。いっぽうで今回の空室率上昇が、コロナ禍によるテレワークを主因とするのであれば、さてマーケットはコロナ禍の収束とともに回復に転じるであろうか。
見通しはあまり明るいとはいえそうにない。というのもオフィスワーカーの働き方が、今後は大きく変わることが予測されるからだ。テレワークをかれこれ1年間行ってきた多くの企業では、このままテレワークを行う方が生産効率が上がる部署、職種と、今まで通り「通勤」を主体とした働き方に戻す部署、職種にかなりはっきりとした仕分けが出来上がりつつある。その結果として今までのようなオフィスでの働き方にすべてが戻るとは考えにくいのである。
2021.03.31(水)
文=牧野知弘