これまで経済一辺倒で、オフィスビルやタワーマンションばかりが建設される東京に、生活していくうえでの潤いはなく、日本経済の低迷が長引く中、今後は経済でもその地位を落としていくのではないかと懸念される。
会社ファーストからの変化に期待
しかしいっぽうで、私自身はポスト・コロナの東京を楽観している。というのも人々の働き方が根本から変わることが、東京を良い方向にもっていくと確信しているからだ。なぜなら、働く人々が通勤に多くの時間を割くことなく、ゆとりのある生活を楽しめるようになれば、おのずと人は遊ぶようになるからだ。また自分の生活スタイルを発見し、そのスタイルにあわせた消費をし、楽しむようになるからだ。
東京はそうした意味で今よりももっと文化や芸術の香りがする都になるのではないかと想像する。いままでの会社ファースト、会社のためにすべてを捧げる生活から多くの人が解放され、増えた自由時間を、東京を楽しむことに費やすようになれば、東京はもっと深みのある都市に成長を遂げるはずだ。
疲れた心を和ませるコンテンツに人気が集中していたが…
今の日本ではお笑い芸人が持て囃されている。お笑い自体は人々の心を和ませるもので、社会の潤滑剤として必要なものだと思う。ただ、テレビではお笑いやグルメ番組が目立ち、美術や音楽などの芸術を扱った番組がほとんどなくなってしまっている。限られた時間の中、会社ファーストで生きてきたワーカーの多くが、疲れた心を和ませるお笑いやグルメ、温泉などに関心を示しているのが今の日本の現実だ。
心にゆとりが生まれ、毎日の生活の中で自身を磨いていく余裕が生まれてくれば、文化や芸術は再び多くの人に親しまれ、それを愛でる人たちが街の劇場や美術館に足を運び、作品展を鑑賞し、その評価を楽しみながら食事をするようになると思われる。またあらたに学校に通って、自身の関心のある分野を見出そうとする人たちも増えてくるだろう。
こうした人々が東京に集まれば、東京はこれまでとは違った姿を私たちに見せることになる。世界中のエンターテイメントが集まり、国内外の人たちが楽しむ。東京で生活することはこうしたものに直に触れていく、一つのステータスになっていく可能性がある。ポスト・コロナ時代の東京は通勤する街、オフィスだらけの無味乾燥な街から脱却し、人生そのものを心から楽しむ街へと変貌していくことを期待したいものだ。
2021.03.31(水)
文=牧野知弘