新型コロナの感染拡大が始まって1年。日々、状況が移ろいゆき価値観が多様化する中、歌舞伎の未来を担う若手歌舞伎俳優のみなさんは、何を考えどのように日々の舞台に臨まれているのでしょうか。

 今回は、一般家庭より歌舞伎界に入り、女方を中心に活躍の場を広げる中村莟玉さんにお話を伺いました。


ありえないシチュエーションも楽しませてくれる歌舞伎の懐の広さ

 歌舞伎座の「三月大歌舞伎」第一部で上演中の『戻駕色相肩』で可愛らしい禿のたよりを演じている中村莟玉さんが、この役に初めて出会ったのは2019年1月。まだ前名の梅丸を名乗っていた時のことでした。

 「浅草公会堂で初春の恒例となっている若手の公演『新春浅草歌舞伎』だったのですが、この演目の出演者は3人。それぞれのしどころをひとりひとりがきちっと踊り、若手だけで演目として充実させなければなりません。当時はそれだけで精一杯だったように思います」

 演目のカテゴリーは常磐津を伴奏音楽とする舞踊劇。禿は、浪花の次郎作と吾妻の与四郎がかつぐ駕籠の内から姿を現すのですが、その内容は「ありえないシチュエーション」なのです。

 「次郎作は石川五右衛門、与四郎は真柴久吉つまり歴史上の豊臣秀吉という設定。そのふたりが一緒に駕籠をかついで、道端で禿と一緒に何をしているの? という話ですよね(笑)」

 「理詰めで考えればありえない話なのですが、それをファンタジーとして楽しませてしまうのが歌舞伎のすごいところ。その面白さに改めて気づくことができたのは同じ年の12月に京都の南座で二度目にさせていただいた時でした」

 一般家庭から歌舞伎の世界に入った莟玉さんが師である中村梅玉さんの養子となり、現在の名に改めて歌舞伎座でお披露目をしたのはその前月のこと。

 南座での上演は莟玉を名乗ることを観客にご挨拶する「劇中口上」のある特別バージョンで、次郎作に梅玉さん、与四郎に中村時蔵さんという豪華な配役でした。

 「言い方に語弊があるかもしれないのですが……。大先輩に支えていただいたその舞台で『この演目ってこんなに楽しめたかな?』と思ったんです。

 踊りとしての振りの正確さや音にきちっとはまるということを超えた、何ともいえない鷹揚な、ゆったりした雰囲気があってとても心地よかったんです。そしてそれがこの作品の持つ世界感とものすごくマッチしている。

 これこそが、歌舞伎だからこそ表現できる世界だと思いました」

 そしてコロナ禍による公演自粛の期間を経て、三度目の出会いとなったのが上演中の舞台です。

 「こんなにも短い期間に三度も、しかも梅丸と莟玉をまたいでさせていただくことになり、自分にとって非常に思い入れのある演目になりました。もしコロナの流行が半年早かったら、マインド的にどうなっていたか……。

 歌舞伎座と南座で莟玉の披露ができ、さらにその後も1月、2月と続けて舞台に立たせていただけた自分は本当に運がよかったと思います」

2021.03.14(日)
文=清水まり