“ぽかん口”は子どもだけの問題ではない
ところで“ぽかん口”の問題は、コロナ禍にあって子どもだけの問題でなくなってきている。目を向けなければならないのは高齢者。特に高齢者施設に入所しているお年寄りだ。
新型コロナ感染予防のため、外部からの立ち入りを禁止している施設が多いのは周知のとおりだが、歯科医師までが締め出しを食っているケースが少なくないのだ。
「以前は月に1度のペースで歯科医の訪問診療を受け入れていた高齢者施設でも、もう1年も訪問させてもらえないところも少なくない」
高齢者は消化機能とともに口腔機能の低下などもあって、硬いものが食べられないことがある。それだけに意識的に口の周囲の筋肉を強化する必要があり、従来はそのトレーニングを歯科医師や歯科衛生士たちが担っていたのだが、いま、それができない状況が全国で見られるのだ。
命の危険に直結する口内環境
高齢者が歯科治療から遠ざかることで生じるリスクは“ぽかん口”だけではない。時には命に直結する病気を引き起こすこともある。
「一番恐ろしいのは誤嚥性肺炎です。口腔内の細菌が、“飲み込み”を誤ることで肺に入り込んで起きる炎症で、口腔内の衛生状態をきちんと管理することが最大の予防策なのですが、いまはそれができない施設が多い」
定期的に歯科健診を受け、良好な口腔環境を維持していた成人でも、健診のインターバルが1年も空くと、劇的に悪化してしまうことが普通にあるという。高齢者は免疫機能と嚥下機能が低下しやすいだけに不安だ。
「いまはどこの歯科医師も採算度外視で万全の院内感染対策を講じています。事実、これまで国内の歯科医院でのクラスターは1件も報告されていません。そうしたことを1軒1軒の高齢者施設に丁寧に説明していますが、理解に温度差があるのが実情です」
たとえ新型コロナウイルス感染症にはならなくても、誤嚥性肺炎で命を落としてしまったのでは意味がない。施設と歯科医師が十分に話し合い、共通認識を持つことが求められている。
2021.03.23(火)
文=長田昭二