私たちの日常の生活を一変させてしまった新型コロナウイルス。昨年から続くこの状況下のストレス、さまざまな不安、疲れなど……何かしらが私たちの心にダメージを及ぼしている。

 精神科医でもある茨城県精神福祉センター長の佐々木恵美先生に、こんなコロナ渦での心の保ち方、整え方を伺った。


終わりがわからない不安……「コロナうつ」「コロナ疲れ」

 一般的な災害だと終わりがあり、復興に向かって次に進めますが、新型コロナ感染症の流行は、なお続いていて、終わりが見えません。

 しかも感染者が全年齢に拡大して、重症患者増加により「医療がひっ迫状況」がニュースに流れています。2021年1月7日(木)には再び緊急事態宣言が出され、今なお勢いが増大しています。

 最初の流行感染の頃から比べると、イライラがつのり、ストレスを抱えた慢性的な「コロナうつ」「コロナ疲れ」……誰もが疲弊している状況です。

 今現在の当センターへの相談は、感染流行初期に多かった「感染への不安」を訴える声から、より具体的かつ多様な内容に変化しています。

 医療体制への不安、コロナ関連のリストラや将来への不安、ナマの人間関係への渇望、依存症(アルコール)、「死にたい」、「疲れた」、不登校などの相談が、増えました。

 センターでは、「コロナうつ」のリーフレットを作成して、一般の方への啓蒙を続けています。イライラや不安があっても、自分だけじゃないですよ、大丈夫ですよという呼びかけです。

感染への意識や行動の格差、友人関係もギクシャク

 最近では、感染への意識の格差がもたらすトラブルが多くなりました。最初の第1波の頃は、それぞれがコロナを意識して行動していました。

 「みんなが大変」という連帯感があったのだと思います。緊急事態宣言についての意識も政府の行動もそうですが、今は一体感を持てていない。

 少し前は、居酒屋で唾液をいっぱい飛ばしあっている人もいました。友達同士だと、この感染に対する考え方や意識、行動の差が、友人関係にも大きい問題となります。

 「遊びに行こうよ」と言われ、言われたほうは「えーっ?」と、とまどう。対処に困って関係がギクシャクしてしまったという話を聞きます。職場でも同じように、意識の格差によるストレスが生まれています。

 例えばランチ時のマスクなしでのおしゃべり、喫煙所での会話、マウスシールドだけの人もいたり、さまざまです。

 気をつけている人にとっては、こうした行動のひとつひとつが気になりストレスとなってしまいます。

どうでもいい雑談ができないテレワーク

 テレワーク疲れの声も多く聞かれます。会社、学校ほかいろいろな場面でオンラインが推奨されていますが、やはりナマで会うのとオンラインで会うのでは違いますよね。空気感というのか。

 通勤からは解放されますが、1日中PC画面の前にいなくてはというプレッシャーもあります。なにより、どうでもいい雑談ができないのですから。

 「ねえねえ、これどうやるのだっけ?」と仕事の相談を隣の席の人に気軽に尋ねることすらできない。

 「ねえ、この間おいしい店見つけたんだけど」とすれ違いざまに会話することも。人と人との有機的な関係が構築できない状態になっています。

ストレス発散の場がなくなり孤独を感じやすくなる女性

 女性は男性に比べ、友人や家族との交流やつながりを大事にする傾向があります。コミュニケーション能力も男性より高い。会っておしゃべりしてストレス発散する人も多いです。

 そのため、新型コロナの影響で人となかなか交流できないと、つながりを感じられず、孤独を感じやすくなります。

 よく飲食店でも「いつまでいるの?」というくらい、おしゃべりを続けている女性たちがいらっしゃいますね。

 その楽しみを絶たれてしまっているので、しょげちゃう人も多いでしょうね。

 男性はひとりで行動することも多いけれど、女性の場合は、このつながりが薄くなることが、心のダメージにつながります。

家事負担や家族との距離のとり方

 さらに女性は、物理的に家事負担が増えていることも。

 家族の在宅時間が増え、適度な距離がとれなくなって、心理的ストレスを感じることも多く、口論・喧嘩も増えて、虐待やDVにもつながるケースもあります。「亭主在宅ストレス症候群」などもよくいわれていますね。

 こういう緊急事態宣言の時においては、普段は隠れている部分が露呈しやすいのです。

 パートナーとの関係も、保健所同士も、行政機関同士も、もともと関係が悪かったところは、災害時にそれがさらに悪く出てきてしまう。

 周囲をみて、思い当たることがありませんか。

自殺、依存症……。心の負担からくる影響

 2020年の11月は、女性の自殺者が前年の1.19倍、男性は1.08倍にもなりました。

 従来、自殺は男性が女性の2倍、自殺未遂は女性が男性の2倍で、女性は自殺未遂で、ある意味SOSを発していたと言えます。それが今、女性の数値が上がっている。

 そのSOS発信を周りが気づいて受け止めることがしにくい状況になってしまっているのではないでしょうか。

 有名人の自殺報道などを、失業や在宅での子育に悩む自分の状況と重ね合わせることも。

実はアルコール依存症? 依存症の相談は昨年の倍に

 依存症の相談は、昨年の倍にもなっています。

 自粛生活で家の中で飲むようになって、帰り時刻を気にせず飲むようになり、酔いつぶれてもそのまま眠ることができる。それにストレスがかると飲酒量が増えますから。

 あまり知られていないのですが、日本人はアルコール依存症の人が多いのです。自分がアルコール依存症と気づいていない軽症の人が増えているといわれています。

 適正飲酒量を純アルコールの量で表すと、男性は1日20グラム、女性は男性よりアルコール分解速度が遅く、臓器障害を起こしやすいので、男性の2分の1~3分の2と言われています。

 ビールだと350ミリリットル以下、ワインだと1杯程度です。

 生活習慣病になるリスクが高まるのが「20グラム以上」、意識せずに飲んでいる人が多いのでは?

 また、妊娠・授乳中は赤ちゃんへの影響が出る可能性があるので、飲酒は避けましょう。

アルコール飲料に含まれる純アルコール量(g)=(アルコール飲料の量 ml)×(アルコール濃度×0.01)×0.8。5%の缶ビール350ccでは、350×(5×0.01)×0.8=14gとなります。

2021.01.23(土)
文=嵯峨佳生子