私、パートナー、家族、身近な人……。様子を見て積極的に声かけを

 気をつかわず何かをする、楽しむということが、新型コロナのせいで少なくなっています。

 いつも緊張していて自律神経が「交感神経優位」という状態ですね。この状況では、不安やストレス、恐怖や怒り、興奮、不眠など、どんな人でも心や体に様々な変化が起こりやすいのです。

 こういうことは自然なことで、特別のものではありません。

 眠れない、食欲がない、だるい、疲れやすい,集中力が落ちた、などの症状が続いていたら、休めのサイン。セルフチェックをしてみましょう。

 今の自分を「あっ、不安なんだ?」とまず気づくことが大事です。心が元気じゃないな、と気づくことで、「じゃあ、ちょっと気分転換をしないと」と、方向転換できるのです。

 そして、家族や信頼できる友人や機関に話してみることも大事。相談センターに相談するほどではない、恥ずかしい、抵抗がある人もいると思いますが、人と話すことで、自分の感情に気づくことができますよ。

 パートナーや身近な人の場合も対処は同じこと。様子をみて、いつもと違うなと感じたらまず声をかけてみましょう。

 「なんでもOKだよ」と言ってあげることが大切。イライラしていても、不安になっていても、それがいまのコロナ渦では当たり前だから。

 人それぞれ症状の出方は異なるでしょうけれど、それぞれの症状に応じて工夫して乗り越える。工夫したらできることが、結構あるものです。それを探ることも大事。

 男性の場合は、弱い自分を見せたくないというプライドもあるので「決して弱いわけではない」「私もこうだから」と自分の気持ちをこちらから話してあげたりすると、「自分だけじゃないんだ」と安心して話しをしてくれるのでは?

 いっしょにセルフチェックやセルフケアしてみるのもいいですね。

★今の自分に気づくセルフチェック

① 毎日の生活に充実感がない
② これまで楽しんでやれていたことが、楽しめなくなった
③ 以前は楽にできていたことが、今ではおっくうに感じられる
④ 自分が役に立つ人間だと思えない
⑤ わけもなく疲れたように感じる
(出典:「うつ対策推進マニュアル」厚生労働省)

 5つの項目のうち、2つの項目以上が2週間以上ほとんど毎日続いて、そのためにつらい気持ちになったり、毎日の生活に障りがでたりしていませんか。

心が元気になるためのセルフケア

① 自分の気持ちを表現してみましょう

 自分の今の気持ちに気づくことが大事。感じた気持ちを紙に書いたり、信頼できる人に話したりすることで、ストレスが和らぎます。

② 人とのつながりを保ちましょう

 人とのつながりは、元気の源。LINE、電話、メール、SNS、オンラインミーティングなど、いつもより声をかけあって。

③ 適度な運動やストレッチを継続。心身がほぐれてすっきり

 軽い運動やストレッチは身体をリラックスさせ、心のケアにも。疲れを感じたり、パソコン作業が1時間以上続いたりしたときには、ストレッチを行ってみましょう。

 東京ストレッチ物語(厚生労働省が運営する「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」) には、“すぐできる! 心と体をほぐす1分間ストレッチ”として、呼吸法や肩こり、足のむくみなど部位別ケアや心のプレッシャーやストレスを改善するストレッチも紹介しています。

 こういった方法も活用してみては。

④ 自分でできるリラクゼーションを見つけて

 これまでしてみたリラックスできたものは? 呼吸法やアロマの香り、バスタイム、ボディケア……など、自分に合うものを探して。

⑤ この機会に新しいことを始めてみる

 料理とか、野菜の家庭菜園、手芸、勉強……。

⑥ 深く、ゆっくりした呼吸を心がける

 緊張したり不安になったりすると、呼吸は早くなります。なるべくゆっくりの呼吸にするだけでも、緊張は緩和されます。

今は自分を見つめる時だから自分を「見える化」

 人の顔を見るだけでも元気になれるということがあります。でも会えないから、「今は自分を見つめる時だ」と考え、「自分は何を思っているのか」「何がしたいのか」を考えるのもいいのではないでしょうか。

 そういうことを具体的に書き出して、「見える化」するのもいいと思います。

 たとえば、コロナが明けたらこれとこれをやると前向きに考えてみる。コロナ明けでなくても今できることもあります。

 「手紙を書いてみる」「いらない洋服を処分する」「お風呂に好きな香りを入れてゆっくり入浴する」など、今できる目標を何でも書いて、それをひとつひとつ達成していく。

 達成できたら、まずは自分をほめて気持ちよくなることが大事。自分が心地いいと思えることを実行していく心がけをしてみましょう。

「人は人、自分は自分」自分を認める練習をする

 女性だと人に認めてもらいたい“承認欲求”が強い人がいます。そういう人は、自分のその気持ちと折り合いをつける努力をするにもいい時だと思います。

 人に認めてもらいたい“承認欲求”、人と比べる“優越感”、人にこうしてほしい“依存欲求”などの自分の気持ちを見つめなおしてみる。人の評価に頼らず、自己評価を高めて自信をつけるようにしていく。

 コロナ渦で、人との関りがなくなってしまっているからこそ、「人は人、自分は自分」と考え、自分で自分を認める練習をするいい機会です。

 今まで人の評価に惑わされて疲れていた人は、地に足がついて生きやすくなっていくと思います。

また日常が戻ったらわたしに「よく頑張ったね」

 緊急事態宣言が無事に明け、コロナの流行感染が一段落したとしても、すぐに元には戻らないものです。早く元気にならなくちゃ、と焦らないで普通に生活を元に戻していけばいいと思います。

 「よく頑張ったね」と自分に声をかけてあげる。いたわってあげる。仲間と「あの時は、大変だったよね」と声を掛け合い、分ち合う。

 歴史的事件です。もう10年になろうとしている東日本大震災の後遺症も、まだまだ残っていますから。

 今、人との接触は減らすようにいわれていますが、心の交流までの自粛は強いられていないので、むしろ、積極的に交流をしてください。

 オンラインはもちろん、感染対策をとりながら、間隔など工夫しながら、時にはナマで接してもいいのではないでしょうか。見えないパワーがもらえます。

【相談機関などで悩んだら】
「生活を支えるための支援のご案内」(厚生労働省制作)

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000622924.pdf

【心の健康について相談したいときは】
新型コロナウイルス感染症対策(こころのケア)|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

https://kokoro.mhlw.go.jp/

●教えてくれたのは……
佐々木恵美先生

茨城県精神福祉センター長。精神科専門医・精神保健指定医。筑波大学 医学群 臨床教授。筑波大学医学専門学群を卒業後、精神科診療、大学教育、学生のメンタルヘルス、産業保健活動に従事。現在、茨城県コロナ関連メンタルヘルス対策協議会でも活動中。

2021.01.23(土)
文=嵯峨佳生子