東村 彼と、友だちのお母さんの最大の違いは「目の前の幸せ」への感度だと思うんです。西郷輝彦さんに告白されたお母さんは、そのことを誇りに思いながらも、ちゃんと自分の目の前の人をハッピーにしてきたし、自分も大切にしてきたんだと思うんですよね。

 でも初恋をひきずっている彼は過去にとらわれて、目の前の人を幸せにすることを怠った結果、自分も不幸になっているというパターンだと思います。

 昔つきあった彼女の話をする暇があったら、目の前の女の子のいいところをひとつでも多く見つけた方が、みんなが幸せになりますよ。

押しつけはしませんけど、いいものだと思いますよ、恋愛って

――今は「恋愛をしなくていいという選択肢」がある時代で、恋愛アンチを掲げる人も増えているように感じますが、いかがですか。

東村 また漫画の話になりますが、漫画の世界でも恋愛を前提にせずグルメとか女性が一人で生きていく楽しみを描いたものが多くなっています。大人の女性向け漫画でも、恋愛よりもリアルな日常を描いた「うちの夫がこうなんです」という作品や育児もの、エッセイみたいなのが多くて、恋愛要素がからむ作品となるとジャンルがレディースコミックになってしまったり。大人の女性が主人公で、少女漫画のようにときめける恋愛漫画って、新作ではあまりないのが現状なんです。中高生向けの恋愛漫画ならあるんですけどね。

 仕事関係者の中にも30代で独身の女性が多いんですけど、そういう大人の女性たちにもぜひ読んで「初恋」を思い出していただきたいです。

 恋愛なんかしなくてもいいんですけど、してもいいですよね。押しつけはしませんけど、いいものだと思いますよ、恋愛って。

「いい男がいないから恋愛できない」と思っている人は、「目の前にいる人のいいところ」を探してみたらいい。幸せって、そういう人に寄ってくるものなんじゃないかと思います。

 
 

スーパーボールをモチーフに使った理由

――『わたおぼ』では、子ども時代に遥がこうちゃんからもらったスーパーボールが幸せのカギを握っているように思います。スーパーボールをモチーフに使ったのは、何か特別な思い出などがあるのですか。

2021.03.09(火)
取材、構成=相澤洋美
写真=松本輝一/文藝春秋
ヘアメイク=後藤るみ
スタイリスト=藤原わこ