「11年も前にこういう作品があったとは」
やがて本番が始まりました。その場面を目の当たりにしていくうちに、あることに気づきました。それは猿之助さんが出演し、2009年に上演された前川知大さん脚本・演出の現代劇『狭き門より入れ』(PARCO劇場)の内容にとても似ているということでした。
コンビニを舞台としたその物語は、世界中で原因不明の新型ウイルスが広まる状況下における“世界の更新”を描いたものでした。その更新がいかなるものかは敢えて触れませんが、物語展開のSF的面白さ、テーマ性、人物のキャラクター設定、含みのあるせりふ、どれをとっても魅力的な舞台でした。「元がよくできている」とはこのことだったのです。
お気づきと思いますが、まるで現在を予言しているかのような内容です。
図夢歌舞伎で『弥次喜多』をやることが決り、猿之助さんはどういう内容にすべきかしばし逡巡していたそうです。そして「主人公が幸四郎さんと重なり、ポンと思い浮かんだ」のが、かつて出演した舞台だったのでした。
その話を聞いて2009年の舞台映像を見たという幸四郎さんは、「11年も前にこういう作品があったとは」と驚きを隠せません。
ひとりの人物をふたりに分けたり男性キャラを女方が演じる女性にしたり、弥次喜多シリーズに欠かせない登場人物を生かす形で置き換えていった結果、物語の骨格を違えることなく現代を投影した作品が誕生したのです。
「原作の舞台は全員男性でしたが、歌舞伎でやるのであればやはり女方もいたほうがいい。ちょっとした違いなどものともせず、換骨奪胎ができる懐を持っている作品なんです」と、猿之助さん。
2020.12.26(土)
文=清水まり