また、ひとり旅に出たい! 知らない世界での意外な展開が楽しい

――ところで以前、『淵に立つ』(16)の時にカンヌ国際映画祭にひとりでいらっしゃっていましたが、旅がお好きなんですか?

 旅をするのが好きですね。あの時は撮影があって上映には間に合わなかったんですが、深田晃司監督に、それでも絶対に来た方がいい、と言われて。行く価値はありましたね。こうやって町全体が映画で盛り上がってるんだ、って言うのを目の当たりにするのも初めてだったし、漠然と遠かったカンヌというものがちゃんと自分の理想と地続きにあるというのを実感出来たし、また必ず戻ってきたいなと思いました。良い経験でした。

 あの時はひとりで行きましたが、ほんとに弾丸だったんです。たまたま撮影が空いたんですよね、4日間位。ひとりでどこかへ行くのは好きなんですが、ヨーロッパは初めてでした。

 パン、と時間が空いた時には、ひとりで旅に行きたくなるんです。海外で初めて行ったのがインド。あとは中国、台湾にひとりで行きました。知らないところに飛び込んでいくことが、好きなんです。

――現地では知らない人と交流したりもするんですか?

 そうですね。知らない人に助けてもらうこともあれば、助けたりすることもあるし、そういうのが面白いですよねえ。知らない世界にポン、と放たれた時に、コロコロと自分の人生が変わっていく感じがして、それが面白いですね。

 自分の中では、その時の記憶や実感が色濃く残るんです。僕は英語が喋れないので、拙い言葉でなんとかやっているんですが、それでも通じ合えるんだという実感が強いですね。

――『泣く子はいねぇが』も人との繋がりが描かれていますが、演技の中にもそういう旅での実感が生かされていますか?

 それは、もちろんありますね。人と人との繋がりというのは、やはり映画の描くべきことだと思います。

――ドラマ「ゆとりですが、何か」のモラトリアムな青年、山岸など、何か定まらない、今の気分を象徴するような青年像を演じることが多いですね。

 そういう時代を象徴するようなものは、映画や作品を作るうえでは必要だと思いますね。時代を切り取るような表現というか。僕は若いので、そういう役に出会うことが多いのかな、とも思いますね。

――いろんな作品を経て、主演作も続いていますが、今後目指しているものはありますか?

 目指している、というか、僕は邦画が好きなんですよね。邦画を観て育ってきたし、ものすごく救われてきたし。日本国内だけではなく、違う国の人にも評価してもらえるような日本映画に参加していきたい。漠然とした夢になってしまいますが。

 映画はもちろんですが、演劇もドラマも、俳優は行き来できるので、いろんなところで自分の可能性を試して、なおかつ、ちゃんと劇場に足を運んでもらえるような俳優でいたいですね。

――舞台にももっと立たれるんでしょうか?

 舞台も好きですし、舞台には舞台の良さが紛れもなくある。昨日もたまたまですが、宮藤官九郎さん脚本で、河原雅彦さん演出の「ねずみの三銃士」を観に行ったんです。コロナ禍になってから、久々に初めて演劇を見に行って。それがやっぱりすごくパワーがあって、それは演劇にしかない喜びがあるなって思いました。

――久しぶりに舞台を観ると、浴びたという感じがありますよね。

 そうなんですよ! 演劇は浴びるんですよね。歌って、踊って、笑って、演劇を浴びる感じがして、それがすごく良いなあと思ったんです。チャンスがあれば色々やりたいと思いますね。

仲野太賀(なかの・たいが)

1993年2月7日、東京生まれ。2006年に俳優デビュー。「ゆとりですが、なにか?」(16)のゆとりモンスターこと山岸役でブレイク。映画出演作に、『桐島、部活やめるってよ』(12)、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』、『アズミ・ハルコは行方不明』、『淵に立つ』(16)、『ポンチョに夜明けの風はらませて』(17)、『母さんがどんなに僕を嫌いでも』、『海を駆ける』、『来る』(18)、『今日から俺は!!劇場版』、『生きちゃった』(20)、『すばらしき世界』(21年公開予定)他多数。19年6月、太賀から仲野太賀に芸名を改めた。

『泣く子はいねぇが』

秋田、男鹿半島の若い夫婦たすくとことねに娘が生まれるが、妻は父になる覚悟のない夫に苛立っていた。大晦日の夜、たすくは地元の伝統行事ナマハゲで、泥酔して大失態を犯してしまう。2年後、東京で燻っていたたすくは、ことねと娘への思いが募り、故郷へ戻るが……。

監督・脚本・編集 佐藤快磨
出演 仲野太賀、吉岡里帆、寛一郎、山中崇、余貴美子、柳葉敏郎
2020年11月20日(金)公開
©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

2020.11.21(土)
文=石津文子
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=高橋将氣
スタイリスト=石井 大