多彩な肩書きを持ち、数々のボーダーを超えてしなやかに生きる西村宏堂さん。
これまでの道のりと日々の習慣は、自らの世界を切り拓くヒントに満ちていました。

モデルを思わせるスタイリッシュな佇まいと、法衣をまとい穏やかなオーラを漂わせる僧侶の姿。「どちらも私なんです」と微笑む西村宏堂さんは、僧侶、メイクアップアーティストの仕事に加え、LGBTQ当事者として多彩な場で活躍する、とびきりユニークな存在だ。メイクと出合ったのは、自身の性に悩んだ高校時代を経て、新天地を求め、アメリカに留学していたときという。

「当時の私はアジア人体型や、一重の目などに劣等感を抱いていました。そんなとき、ミス・ユニバースで日本人女性が優勝。衝撃でした。彼女のアイメイクを真似てみたら、驚くほど目の印象が変わった。自分の気持ちまでも変化させられるメイクの素晴らしさを知り、メイクアップアーティストになろう、と決意が固まりました」
ほどなく尊敬するアーティストに弟子入りし、NYで研鑽を積むなかで自身のセクシャリティへの考え方も徐々に変わっていった。

「自分が心地良い自分でいればいい、と。それまでは『人と違うから』と理由をつけ、自らを抑えつけていたのだと気づきました」
この頃から、それまでは避けていた実家の寺の教えにも興味を持ち、僧侶のための修行を開始。
「キラキラのアクセサリーが好きな自分が僧侶になっていいのかと悩みましたが、尊敬する師に『仏教で大切なのは皆が平等に救われること。服装や外見は関係ない』と言われて希望を感じました。仏教もメイクも人を助けるもの。両方とも同じ役割だと思っています」
2020.11.17(火)
Text=Kayako Nitta
Photographs=Takuya Nagata
Styling=LEONARD ARCEO
CREA 2020年11・12月合併号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。