「プラス・ドゥ・パスト」はフランスの街角にあるような小粋な外観のパン屋さん。雑穀入りのバゲットやライ麦入りなどのハード系のパン、しっかり焼き色をつけたクロワッサンに混じって、フランス人が愛するお菓子が並んでいるのを発見しました。

 お店は、JR神戸駅、神戸高速鉄道高速神戸駅の北側、楠木正成公を祀る湊川神社の西門前にあります。湊川神社は明治5年(1872年)の創建。「楠公(なんこう)さん」として親しまれ、境内には楠木正成公の戦没地や墓碑があり、拝殿天井には棟方志功などの有名な画家から奉納された豪華な天井画が収められています。JR神戸駅は東海道本線の西側の終点、山陽本線の東の起点。明治7年(1874年)、日本で2番目に開業した駅です。現在の建物は昭和9年(1934年)に建てられた3代目。重厚なシャンデリアや暖炉がある貴賓室が、今も駅舎内の寿司店に残されています。

「スタートは2003年。路上の『青空パン屋パスト』で、雨が降ったらお休みでした」と、オーナー・ブーランジェの佐藤有希子さん。元々ワインとチーズが大好きで、それらと相性のいいパンを作りたいと修業し、ひとりで作って街頭で販売し始めたのでした。ちゃんとしたお店を持たなくても「自分のパンが世に出た」と満足していたのだそう。でも、「冬は寒く夏は暑くてたいへんで」2004年に同じ場所で店舗をオープン。「自分自身が色々食べたくて、たくさんの種類の小さいサイズのパンを作っていたんです」。オーブントースターで短時間に温められるプチパンはたいへん好評で、焼き立てを食べてもらおうと、店内にイートインのコーナーもつくりました。

 お店は順調でしたが、佐藤さんは2011年に一旦休業してフランスに行きます。「フランスの庶民の生活を体験してみたかった。市場で野菜やチーズを買って、街の人が普段使いするお店で食べて。そんな日常の食文化に触れました」。そして、2カ月間パン屋の厨房で研修。「日本人は技術はすごい。パンもていねいに作ります。でも、フランスでは、素材がいいこともあるからか、きっちり作ることよりもできあがりの雰囲気がいいものが好まれるみたい。パン屋には朝も昼も夜もお客が並んでいました」。日常に必要とされるお店でありたいと強く思ったのだそうです。

 そんな体験をして帰国した佐藤さんは、訪れて特に気に入った南仏のイメージにお店をリニューアル。「フーガスという南仏のパンを出したいし、ニース風サラダなどのお惣菜も出してみたくなって」。明るく開放的な店内に、大きなショーケース。中にはフランス定番のお惣菜、キャロット・ラペやパテ・ド・カンパーニュ(田舎風パテ)などが並んでいます。それらを使ったサンドイッチもずらり。

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2013.02.24(日)