新年にふさわしい、おめでたいおせんべいがあります。その名も「富士せんべい」。お店の名前も「富士の山菓舗」で、おせんべいの手焼きを続ける小さなお店の逸品です。
「涼しさや 何處に住んでも 不二の山」 小林一茶
「霧時雨 不二を見ぬ日ぞ 面白き」 松尾芭蕉
「富士は雲 露に明けゆく 裾野かな」 正岡子規
おせんべいの表面には、富士にちなんだ俳句が一枚一枚に書かれています(11種類。なかなか読みづらいですが…)。それもあって、俳句の会で出されることもあるという風流なおせんべいです。
お店があるのは、兵庫県明石市。明石城の城下町で、JR、山陽電車の明石駅すぐ北側にある明石公園は城跡を整備した公園。今も櫓や城壁が残っています。駅の北東には奈良時代の歌人、柿本人麻呂を祀る柿本神社もあり、和歌や俳句とは縁深い土地といえるかもしれません。お店がある本町は、駅の南側。明石港に揚がった新鮮な魚や練り製品などの店が並ぶ「魚の棚商店街」のさらに南にあります。
関西でなぜ、富士せんべいなのか、ちょっと不思議ですよね。「富士の山菓舗」は、安政3年(1856年)創業の老舗。初代が富士山に登ってその美しさにいたく感動し、帰りに立ち寄った大阪でさっそくおせんべいの型を12丁作り、明石に戻ってから焼き始めたのだそうです。元々はお茶を販売し、お茶菓子として丸い形のおせんべいを焼いていたそうですが、「富士せんべいがすっかり有名になって、店名も変えてしまったんです」と6代目の原田貞さん。
今も古いおせんべいの型が1丁残っていると見せてくれました。「店にあった金型は、第2次大戦の時に供出してしまいましたが、それ以前に客に贈っていたものが難を逃れ、また店に戻ってきたんです」。使い込まれたおせんべいの型から、長く愛されてきた店の歴史を感じます。
原田さんは、今も、昔のままの手焼きを守っています。富士せんべいは、生姜の蜜掛け。卵少なめのあっさりした生地で焼いて、裏面に刷毛で生姜蜜を塗って乾かしています。食べると、おせんべいの香ばしさと生姜の香りが口の中にほんのりと広がって印象的。
2013.01.13(日)