亡き師匠が与えてくれた課題
早稲田大学文学部の演劇映像コースでギリシャ喜劇やシェイクスピア、京劇などについて学んだ鶴松さん。卒論では自身が将来演じてみたいと思っている『鏡獅子』について研究したそうです。
18代目と一緒に、映像で残っている6代目尾上菊五郎の『春興鏡獅子』を見たことも鶴松さんにとって大切な思い出です。
「勘三郎さんのご自宅のリビングで、深夜に2人っきりで映像を観ながら、一つひとつの動きや身体の使い方などを細かく教えてくれたことを覚えています。
それ以来、『鏡獅子』は自分にとって最もやりたい役になりました。
卒論を書いているときも、勘三郎さんが伝えてくださった教えを何度も思い出しました。
もう直接教えていただくことも、厳しく怒ってくださることもなくなってしまったんだと思うと涙が溢れ、もう一度お会いしたい思いでいっぱいでした」
そして大学を無事に卒業し、歌舞伎俳優として生きる道を本格的に歩み始めたことは、自身の人生にとって訪れた第2のターニングポイントだと語ります。
「勘三郎さんが亡くなられたことで、今後どうすればいいのかと途方にくれた自分がいました。
しかし、勘三郎さんからは、“いつまでにこの役ができるように自主的に稽古をして準備しておきなさい”という具体的な課題を僕に与えてくださっていたことを思い出したのです。
例えば琴、三味線、胡弓の三曲を演奏しなければならない『阿古屋』や、僕の夢でもある『鏡獅子』などの大曲です。
勘三郎さんが亡くなった直後よりも年月が過ぎれば過ぎるほど、その存在の大きさ、有難さを痛感しています。
ですから、今、勘三郎さんがいたら、どういうことをいってくださるのだろうかということを常に意識しています」
歌舞伎は、先人達が演じたものを見て覚えて体得していく演劇です。
いつ言われてもできるように日頃から研鑽を積んでおくことが大切であり、その教えを18代目は鶴松さんに直に伝えていたのです。
亡き師匠が鶴松さんに与えた課題は、今の鶴松さんとって大きな目標であり、支えとなっています。
2020.07.24(金)
文=山下シオン
撮影=佐藤亘
スタイリング=木村厚志
ヘア&メイク=AKANE
衣装クレジット=ブルゾン62,000円、Tシャツ8,500円、パンツ42,000円/Y's BANG ON!(ワイズ プレスルーム)