「未来で!」今なお甦る俊寛の台詞

 その後も勘三郎さんの熱い指導は続きます。2010年10月に大阪で上演された平成中村座の公演で、鶴松さんは3つの大役を勤めました。これもまた勘三郎さんが意図していたことでした。

 「2006年のコクーン歌舞伎のときだったと思いますが、楽屋で“2010年の大阪で上演する平成中村座で、『紅葉狩』の山神と『俊寛』の千鳥、『弁天娘女男白浪』の宗之助をお前が演るから。これが上手くできれば何でもできるということだからね”といって、難役に挑むチャンスをくださいました。

 千鳥は、(坂東)新悟さんとダブルキャストで、新悟さんが前半、僕は後半を勤めさせていただきました」

 「勘三郎さんは本番が終わった後に、舞台稽古にずっと参加してくださいましたし、公演期間中は袖に引っ込んだときに、“花道から出るときは胸で歩くんだよ”とか、毎日指摘してくださるんです。

 付き人のかたに“鶴松を団扇で扇いでやってくれ”と僕を気遣ってくださったことも覚えています。このときも心で演じることを強く教わりました。その翌年に鹿児島県の硫黄島で『俊寛』を上演されたときも僕が千鳥を演らせていただいたんですが、勘三郎さんは体調が悪かったので元気がありませんでした。

 最後の場面の“未来で”という俊寛の台詞は、勘三郎さんが演じた役で一番印象に残っています。大人の役で教わったのは、千鳥だけなので、その教えをしっかりと守ろうと思います」

 この後、鶴松さんは大学受験のために、勉学を優先します。6カ月にわたって上演された浅草の平成中村座には2回出演しましたが、2012年5月の『志賀山三番叟』が鶴松さんにとって勘三郎さんとの最後の共演となりました。

≫第3回インタビューに続く(7月22日[水]公開予定)

中村鶴松(なかむら つるまつ)

1995年3月15日生まれ。東京都出身。2000年5月歌舞伎座『源氏物語』竹麿役に本名の清水大希で初舞台。以来、子役として数多くの舞台に出演。2005年5月歌舞伎座『菅原伝授手習鑑』車引の杉王丸で2代目中村鶴松を名乗り、18代目中村勘三郎の部屋子として披露される。2018年6月平成中村座スペイン公演では『連獅子』に出演。

中村勘九郎 中村七之助 歌舞伎生配信特別公演

日時:2020年 7月18日(土)13時~、7月19日(日)11時~
料金:3,000円(税込) ※チケット発売中
中村屋ゆかりの地である東京・浅草の浅草公会堂の舞台から、中村勘九郎、中村七之助、中村勘太郎、中村長三郎、中村鶴松 他、中村屋一門がみなさまに「元気」をお届けするため、特別な舞踊や芸談、思い出の映像の数々をライブ配信。
http://kinshu2020.com/live.html

中村屋“3人目の倅”
中村鶴松の素顔

2020.07.15(水)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘
スタイリング=木村厚志
ヘアメイク=AKANE
衣装クレジット=ニット26,000円/JOHN SMEDLEY(Lea Mills Agency)