しかし、日本での接種率はわずか0.6%

 翻って日本はどうか。2013年4月、予防接種法に基づく定期接種がはじまり、小学6年生から高校1年生相当の女子は誰でも無料で接種できるようになりました。

 接種努力義務が定められている定期接種のカテゴリーに入っているのは、他にBCG、麻疹ワクチン、風疹ワクチン、水痘ワクチンなどがあります。

 個人的な予防に重点が置かれるカテゴリーに分類されるインフルエンザワクチンなどよりも、HPVワクチンは重要性が高いと位置づけられているのです。

 ところが、接種後に様々な症状が出たとする報告が相次ぎました。

 激しい頭痛、四肢の麻痺などの症状に苦しむ女性たちの様子を報じたテレビのインパクトは大きく、厚生労働省は定期接種開始からわずか2カ月で積極的勧奨を差し控え、接種対象年齢の女子がいる世帯に予診票など書類を送付して接種を促すことを止めてしまいました。

 ただ、定期接種の位置づけは変わらないので、対象年齢の女子は今でも無料で接種することはできます。しかし、接種率は約0.6%程度にとどまっています。

 世界では子宮頸がんの撲滅も視野に入れる国が出てきている中、このまま日本で低接種率が続けば、今後も年間約3,000人が子宮頸がんにより命を落とす恐れがある――これは異常と言うべき状況です。

接種後の“症状”は、本当にワクチンのせいなのか?

 この低接種率の背景にあるのは、テレビで報じられたワクチン接種後の多様な症状でしょう。

 これについて、国は全国疫学調査を実施しています。

 2016年12月、祖父江友孝・大阪大学教授を班長とする研究班では、HPVワクチン接種歴のある方に報告されている症状と同じ症状で受診した患者のワクチン接種歴の有無を医療機関を通じて調査し、分析した結果が報告されました。

 それによれば、多様な症状は症状出現前にワクチンを接種していた女子で10万人当たり27.8人、接種歴のない12~18歳女子で10万人当たり20.4人と推計されました。

 この調査のポイントは、接種歴のない人にも、接種後に報告されているような多様な症状が生じていたということです。

 一般の若い女性のデータを集めた大規模疫学調査もあります。通称「名古屋スタディ」と呼ばれるものです。

 この調査では、名古屋市に住民票のある中学3年から大学3年生相当の年齢の女子約7万人にアンケートを送付し、約3万人から回答が得られています。

 この手の調査では非常に高い回収率と言えます。

2020.03.20(金)
文=吉村泰典(慶應義塾大学名誉教授)