確かに魔物が住んでいる
としか思えないグッズ売り場

 着いてわかった。なるほど、アケミ嬢の言う通り、この店は何かが違う。地下に降りる階段の壁に並ぶレコードジャケットが、アムールモナムールセシボンと叫んでくる。なんという昭和歌謡からの濃厚な歓迎! そして一歩店内に入った途端、私は膝から崩れ落ちた……。

 これまた「置くスペースがなければ貼ればいいのよ」とマリー・アントワネット形式で飾られているレコジャケの嵐。

 そして店内に流れる曲が、なぜか吉田美奈子と中島みゆきの2本立て。かなり狭い空間に、この2つのメロディが混在して流れているというカオス!

 「少しでも多くの曲を楽しんでほしい」。そんなスタッフのパッションの表れだろう。三半規管が良い意味でマヒられていくのを感じる。私は立ち眩みがする頭を振り、お会計の正面に鎮座するおススメラックを見た。

 「うっ……」。呼吸が止まる。なぜなら大好きな西城秀樹の写真集が「稲、よくきたね!」と語りかけるようにズラリと並んでいたからである。

 こっこんなの、バーに入ったら昔好きだった男がバーテンとして働いていたようなものではないか! こじらせ女が自動的に財布を開くツボをこの店は心得ている。怖い。

 「だめ、今日はダメなのよヒデキ。許して。予算は2,000円と決めているの」。左にそっと顔を反らすと、お前を逃がさないとばかりに並ぶ昭和歌謡グッズとブロマイド!!

 いやあああ! ヒデキが微笑むレコード型のメッセージカードとメモ帳をすぱすぱと掌に差し込んでしまう。無意識に!

 勢いで謎のイケメンのブロマイドにまで手が伸びる。誰? 誰かわからないけど、小さいころ可愛がってくれた死んだ叔父に似ている。買っちゃう!

 誰か、誰か助けて。心のブレーキが壊れていく。今の私は(お金に)翼の生えた(お店にとっての)エンジェル!

2019.12.30(月)
文・撮影=田中 稲
撮影=松本輝一
写真=文藝春秋