「私の振付作品では
弱い女性は一人も登場しません」
トゥシューズはロマンティックとは関係なく、女性を強く見せるもの、とシュレップァーは断言する。
「私の振付作品では、弱い女性は一人も登場しません(笑)。女性は皆、強い存在です。そして、私は白鳥たちを女性として描きます。彼女たちは昼の間は白鳥ですが、夜から朝までは女性だからです。
こうしたストーリー・バレエは、ずいぶん昔に『火の鳥』に振付をして以来ですが、ダンスとしてはモダンでイマジネーションを刺激するものです。私は現代の振付家として、我々が生きている世界と関連のあるものを作りたいのです。
そして『心理』というものを何より大事にしています。同時にメルヘンでもあるわけですが……ストーリーは小説よりも、はるかに詩に近いものなのです」
2019年3月9日(土)に台中国家歌劇院で観たシュレップァー振付の『マーラー交響曲第7番』は、シンフォニー『夜の歌』を丸ごと使った休憩なしのモダン・バレエで、ピットにはフル・オーケストラがびっしりと入っていた。
「これはとてもトランペットのパートが難しい曲なんだ」といたずらっぽく微笑んでいたシュレップァーは、クラシック音楽の大ファンでもあるのだろう。ダンスはユーモアあり、男女ともパワフルで、最初から最後まで特別なエネルギーに溢れていた。「これが私の見たいものなのだ!」という振付家の強い意図が伝わってくる。
ストイックなまでに「本物」と「オリジナル」にこだわり、バレエが現代に存在する意味をつきつめていくマーティン・シュレップァー。ダンサーは皆、彼の哲学に魂を捧げている戦士たちだ。舞台から溢れ出すメッセージに、最先端のバレエの威力を感じた。
2019年9月の来日公演では、世界でただひとつだけの『白鳥の湖』をバレエファンに是非体感してほしい。
バレエ・アム・ライン初来日公演
マーティン・シュレップァー演出
『白鳥の湖』
2019.09.07(土)
文=小田島久恵