初版台本のみの人物も登場する
シュレップァー版『白鳥の湖』
従来的なバレエとは異なる「心理バレエ」を創造することがシュレップァーのライフワークだ。
「『白鳥の湖』を作ったのは、私個人のテーマとして、古典的な大きな作品を採り上げたいと思っていたからです。最初は『眠れる森の美女』とどちらにしようか迷ったのです。『眠れる……』のほうが『白鳥の湖』より抽象的な表現が可能だと思っていたからです。
しかし、私の中には人間の心理を扱うこと、人と人との関係を心理的に観察していくことへの興味がありました。その点で『白鳥の湖』のほうがふさわしかったのです。
音楽も決め手になりました。チャイコフスキーの音楽というのは本当に劇的です。小澤征爾の指揮による録音を聴いたとき、倒れてしまうような衝撃を感じ、それが最後の一押しになりました。全然ダンスにフォーカスした指揮ではないのです。すごいドラマが詰まっていて、ダイナミックな音でした。これでいけるんじゃないか、と閃いたのです」
生粋の演劇人であるシュレップァーはリブレットにも強いこだわりを見せる。
「モスクワでの初演は失敗したと言われており、その後、リブレットを大々的に改変して、プティパ=イワーノフ版が成功するわけですが、私はもともとのオリジナルを忠実に再現したかったので、初版台本にしか登場しないオデットの祖父や、オデットの継母が登場します」
「ロットバルトは悪魔として描かれているけれど、本当に魔法を使って悪を行使しているのはオデットの継母で、ロットバルトは魔法を遂行するだけの存在なんですね。オデットの母と継母は別の存在で、これを細かく説明していくと膨大な時間がかかってしまいます(笑)。複雑に考えず、舞台を見ればクリアに感じることが出来ると思います」
2019.09.07(土)
文=小田島久恵