芸術監督シュレップァーの
舞踊哲学と信念
インタビューに現れた芸術監督マーティン・シュレップァーは謙虚で物静かな人物で、牧師のような雰囲気の持ち主だった。ところが、バレエについて語りだすと、とことん熱くて妥協がない。彼はたった一人で旧態的なバレエを覆そうとしている革命家で、その姿勢には全く妥協がないのだ。彼の舞踊哲学と信念、『白鳥の湖』に託した未来的な芸術観をたずねた。
「私が2009年にバレエ・アム・ラインに来る前は『ライン・ドイツ・オペラ・バレエ・カンパニー』という名前で、それ以前にも偉大な監督がこのバレエ団を支えて成功を収めてきました。私がここに来てやりたかったことは、バレエの構成をよりクリアにして、ピュアなダンスを創造するために、振付の抽象度を上げることでした。
バレエ団にはオーケストラが二つ存在します。デュッセルドルフ・フィルハーモニーと、デュースブルク・フィルハーモニーです。この二つのオーケストラを使えるという条件で、私の『まず音楽ありき』というアプローチが活かせると思いました。マーラーのシンフォニーやブラームスのドイツ・レクイエム、モダンなところではリゲティにも振付をしました」
シュレップァーが芸術監督として果たした中でも大きな功績は、3,000平方メートルの敷地に建てられた5つのスタジオをもつ「バレエハウス」の完成だ。財政面での窮状が叫ばれるヨーロッパの歌劇場で、デュッセルドルフがこれだけの予算を芸術に投入するのはレアなケースだ。
「インターナショナルな認知度という面でも、芸術的な評価の面でも、私が就任してからの5年間でそれに見合う成果を出してきたから実現しました。3年前に完成しましたが、それが私の芸術監督としての任期を延長する条件だったのです。それが政治を動かした理由だったと思います。かつてジョン・ノイマイヤーがハンブルク・バレエでなし得たことですが、彼がそれを実現できたのは70年代~80年代のダンス・ブームの時代だったからです。それ以来の改革が出来たことは喜ばしいことだと思います。
アーティスティックな状況が変わり、ダンサーやスタッフはリラックスして仕事に励むことが出来るようになりました。5つのスタジオのうちひとつは、ステージと全く同じ大きさです。平行して複数の作品のリハーサルが出来るのは素晴らしいことですよ。事務局にとってもオフィスのスペースを十分とることが出来るし、キッチンも設置されました。マッサージや治療を受けられる場所、メディテーション・ルームやジム、サウナもあるんです」
2019.09.07(土)
文=小田島久恵