ハモりよりユニゾンに魅力がある

矢野氏の最新刊は『コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』。川上音二郎、榎本健一、美空ひばり、クレージーキャッツ、YMO、ピコ太郎など、日本におけるノヴェルティソングの系譜を追った快著である。
矢野氏の最新刊は『コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』。川上音二郎、榎本健一、美空ひばり、クレージーキャッツ、YMO、ピコ太郎など、日本におけるノヴェルティソングの系譜を追った快著である。

近田 ジャニーズには本当のラブソングが意外とないんだよね。誰かを見つめて「僕は君が好きでたまらない」みたいな歌ってないでしょう。

矢野 ないですね。

近田 それよりもさ、SMAPの「がんばりましょう」(1994年)じゃないけど、コミカルなものが多いじゃない。昔の「スシ食いねェ!」(1982年)とかさ。そういう、かっこいい人たちが歌ってもかっこよくならないような曲で、ファンじゃない人たちの気持ちをつかむんだよね。

 そのあたりのセンスがどこから来ているのかわからないんだけど。いまだに関ジャニ∞とかそういうところがあるじゃない。

――制作現場やメンバーの自主性に任せている部分もあるんですかね。

近田 どうなんだろうね。俺もまったく内情を知らないからわからないけど。

矢野 最近はちらほらメンバーが作詞、作曲していますよね。

近田 そこは時代の流れで、KinKi Kidsの人たちなんかが主体性を発揮するようになってから変わってきたのかもしれないね。

矢野 でも、堂本剛くんなんかはすごく自主性を発揮しているけど、不思議とジャニーズっぽいと思っちゃうんですよね。

近田 そうなんだよ。あれは不思議だよね。

矢野 アレンジまでやっているケースは、さすがにシングル曲では見ないですね。

近田 そういう意味での本当のミュージシャンはいないよね。作詞、作曲をやるケースはあっても、制作に対して基本的に意見は言わないと思う。

 ある種の距離というか、ここからは立ち入らないという暗黙の何かがあるからこそ、ジャニーズのサウンドカラーが保たれているんじゃないかな。

矢野 たぶんSMAP以前にジャニーズの精神とか世界観はかなり共有されていて、以降はそれを前提にした上で、具体的なディレクションとかは現場裁量の部分も増えているんじゃないかと想像します。

 最初に話に出た、あのジャニーズ的な歌。あれが入るとどんな曲もジャニーズっぽくなるという担保があるから。例えば少年隊の「FUNKY FLUSHIN'」(1990年)は作者の山下達郎が歌うと山下達郎になるけど、少年隊が歌うとやっぱりジャニーズなんですよね。特徴がないところが逆にジャニーズ印になっている。

近田 揃っているんだかいないんだかよくわからないような、妙なあのユニゾンの感じね。そこは初代ジャニーズから変わっていない。今はうまくハモるグループも増えているけど、基本的にハモりよりユニゾンに魅力がありますよね。

矢野 そうですよね。初代ジャニーズのレコードにも(混声)と書いてあるんですけど、4人いるのに2部混声なんですよね。

近田 しかも歌に感情を込めないじゃん。どうしても踊りのほうに重きが置かれるんでしょうね。

» talk05に続く

『考えるヒット テーマはジャニーズ』

著・近田春夫
本体1,600円+税 スモール出版
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近田春夫(ちかだ はるお)

1951年東京都生まれ。75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。80年代以降はビブラトーンズなどを率いてバンド活動を続ける傍ら、タレント、ラジオDJ、作詞・作曲家、CM音楽作家など多彩に活躍する。86年にはプレジデントBPMを名乗って日本語ラップの先駆者となり、87年には人力ヒップホップバンドのビブラストーンを結成。96年からは週刊文春で「考えるヒット」を連載。現在は、元ハルヲフォンのメンバー3人による新バンド「活躍中」として活躍中。2018年10月には、ソロアルバム『超冗談だから』をリリース。12月には、OMBとのユニット、LUNASUNのアルバム『Organ Heaven』が発売された。

矢野利裕(やの としひろ)

1983年東京都生まれ。批評家、ライター、DJ。東京学芸大学大学院修士課程修了。2014年、「自分ならざる者を精一杯に生きる――町田康論」で第57回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸編『村上春樹と二十一世紀』(おうふう)、単著に『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」』(垣内出版)、『コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』(Pヴァイン)がある。