一本釣りの基準は誰にも分からない

近田氏の著書『考えるヒット テーマはジャニーズ』には、週刊文春の連載コラム「考えるヒット」から140回分が抜き出されている。
近田氏の著書『考えるヒット テーマはジャニーズ』には、週刊文春の連載コラム「考えるヒット」から140回分が抜き出されている。

――ジャニーさんの才能って、以前ご指摘のあった言語感覚と、少年たちのスカウティングと、あとはどんなことがあると思いますか?

近田 若い女の子の気持ちをずっと持っていたということだよね。だからジャニーさんがいいと思うものは女の子たちもいいと思う。それは本当に天才的なものだよ。特殊な目を持っているんだと思う。

矢野 100人ぐらいの子たちが踊っている中で「ユー」って一本釣りするわけじゃないですか。誰にも理由がわからないらしいんですよね。

 「なんで隣のこの子じゃなくてこの子なの?」と。でも、いざデビューさせてみると「ああ、やっぱりこの子だったんだ」とみんな納得する、というパターンが本当に多いと聞いたことがあります。

近田 そうそう。

矢野 その審美眼の確かさ、しかもそれが衰えなかったのはすごいですよね。

近田 そればっかりは、ジャニーさんにしかないものだと思うよ。

矢野 あとは、例えば『ウエスト・サイド物語』を見て「これを日本でもやろう」と思ったときに、なかなか初代ジャニーズみたいにはならないと思うんですよ(笑)。

 抜き出し方がものすごく独特で、唯一無二だなと思います。今後、ジャニーズがどうなるかというのは想像もつかないですね。

――音楽面でジャニーさんのセンスが発揮されている部分はあるんでしょうか。

近田 昔はあったと思うけど、今はわからないね。

――よく聞くのは、ジャニーさんもメリーさんも音楽面には無頓着で、何か鳴っていればいいんだ、みたいな。だから結果的にああいうユニークなものになると。

近田 さっきも言ったけど、歌は仮歌みたいなもんなんだよね。やっぱりジャニーズにとっていちばん重要なのはフォーメーションだから。

矢野 何か明確にタッチしているみたいな話は聞かないですけどね。ただ、ジャニーさんの好みとかジャニーさんの世界観を熟知しているブレーンがいるという噂は聞いたことがあります。

近田 ジャニーさんの精神みたいなものは受け継がれていると思う。他の方向には行っていないよね。

矢野 そう思います。

2019.08.03(土)
構成=高岡洋詞
撮影=山元茂樹