2019年2月、近田春夫の綴る週刊文春の長寿連載「考えるヒット」から興味深い書籍が誕生した。
『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。タイトル通り、ジャニーズ事務所に所属するアイドルたちの曲を扱った、神回ならぬ「ジャニ回」を抽出してまとめたスピンオフ的な一冊である。
その出版を記念し、ジャニーズ事務所が60年近くにわたって生み出してきた音楽をめぐって1951年生まれの近田氏と語り合うのは、2016年に『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)を上梓した1983年生まれの矢野利裕氏。
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ジャニーズと戦後民主主義
――矢野さんの『ジャニーズと日本』でいちばん刺激的だったのが、ジャニーさんが日本にアメリカのショービズを輸出していることの意味合いを《戦後日本の民主化を娯楽の面から支える、ということだ》と読み解いているところでした。
矢野 ジャニーさんが米軍の一員として来日したこともあって、日本に戦後民主主義が根づいていく歴史の枠組みから、ジャニーズを捉えるべきだと見立てたんです。
もともと野球チームだったのも興味深くて、というのは当時の新聞なんかを見ると、野球って必ず民主主義とセットで語られているんですよ。打者が替わっていって全員に機会が与えられるのは平等の表れだ、とか。
そういう語られ方をしていた時代に少年たちを集めて野球チームを作ったことには、啓蒙的な意識があったのかなと想像しました。
近田 背景にはアメリカの国策があったわけじゃないのかな。
矢野 どれぐらい明文化されているかはわからないんですけれど、米軍は日本の民主化という名目で来ているわけだから、その一環というかミクロな振る舞いとして、野球を含めた娯楽やスポーツを教えるということもあったのかなとは思います。
近田 60年代にテレビでアメリカのテレビドラマが放映されたのは、完全に国策だったらしいよね。ライフスタイルを伝えて日本人を教化するみたいな意味で。そういうこととつながる部分があるんですかね。
矢野 あると思います。スウィングジャズは国策的に輸出されたそうですし、ジャニーさんの振る舞いもそのへんとセットになっている感触はありますよね。
近田 でも、具体的にジャニーさんがなんらかの命を受けて日本に乗り込んできたとか、そういうことじゃないでしょ?
矢野 その裏取りをしたいんですけど、出てこないんですよね。
近田 結果的にそうなっただけじゃないかって気がするんだけどな。
矢野 僕もそっちじゃないかと思っています。ただ、「ジャニーズ系」という顔の好みができるぐらい教育されているのはすごいことだと思います。日本人の価値観を変えたんだなと。
近田 すべてがジャニーさんの好みだからね。
2019.08.03(土)
構成=高岡洋詞
撮影=山元茂樹