蘇った老舗旅館の
細やかなおもてなし
足湯で癒されたところで、「万葉公園」の北隣にある「富士屋旅館」へ。今回の旅の最大の目的地だ。大修復を終えて眠りからさめたばかりの老舗旅館だ。
湯河原の中心を流れる千歳川沿いに歩いて行くと、鮮やかな赤い手すりの橋の前でハッピ姿の旅館の皆さんが出迎えてくださった。
橋を渡ると、正面には骨格以外はほとんど建て直したという新館、左手には古い建物を修復した洛味荘と旧館、右手にはメインダイニングの「瓢六亭」がある。
新館の正面玄関には「富士屋旅館」の上に「FUJIYA RYOKAN」と書かれている。世界各地からの旅行客にも分かりやすい。
中に入ると、窓の外の緑が見えるロビーラウンジには、アンティークのイスとテーブルが配され、チェックインカウンターの背景には富士山のシルエットがデザインされている。
イスに座ってお茶菓子をいただきながらチェックンの手続きを済ませた。
メイン棟の新館には、ロビーラウンジと、前述の「瓢六亭」、大浴場、そして10室の客室がある。
建物の間取りは以前のものを踏襲しているが、ほとんどの壁や天井などは新たに造られたもの。
洋室8室、和室2室のうち2室には檜の内風呂がある。シャワーのみの客室に滞在する場合は、檜の温泉大浴場を利用することになる。
旧館は、全室温泉檜内風呂付きだ。以前の客室数を半数に減らし、各客室に2〜3間あるという贅沢な造りとなっている。室内に使われている欄間も一度外して洗浄し、再び取り付けたという。
畳の上にベッドが置かれていたり、浴室の窓から外の緑を眺めることができたり、ゲストが心地よく過ごすことができる工夫が随所に配されている。
古い建物を生かしながらも洗面台や浴室は刷新されていて使い勝手がいい。
客室内には必要なものはすべて揃っている。そぞろ歩き用と寝間着用に浴衣が2枚ずつ、滞在中に使用できる綿の手提げ袋、バスルームのアメニティも充実。
日本茶のセットのほかにエスプレッソマシンや紅茶のセット、携帯用のマルチ充電器まで。手ぶらで訪れてもなに不自由なく過ごすことができる。
客室でひと休みして、アンティークの和箪笥の引き出しを開けると、そこには「富士屋旅館」のロゴ入りの和風便せんと封筒が。やさしい和紙に触れたら手紙を書きたくなった。
2019.05.21(火)
文・撮影=たかせ藍沙