愛さずにはいられない
「ONDORISM(オンドリズム)」
有名人SBを発行していたのは、主に雄鶏社、日本ヴォーグ社、ブティック社の三社。実用書としての手芸本を発行する老舗が手がけていた。
発行元と出演タレント・モデルを整理してみたところ、今で言うところの「囲い込み」的な行為は見当たらなく、高嶋政伸のように、三社からそれぞれ1冊ずつのSBに登場している人も見受けられる(この高嶋弟バブルはドラマ「HOTEL」(レギュラー放送は1990~98年)の影響なのか、それも検証したいことのひとつである)。
それぞれの出版社が手がけるSBの中でも、特に雄鶏社のSBにおける観音開きページがやばい。
もはやここはフリーのページなのか、本来の目的であるセーターとは全く関係のない世界が展開されている。このページの構成を考える仕事だけして暮らしていたい……。そんな夢さえも生まれてしまうSBの魅力よ。ああ、果てしない。
観音開きページはとにかく自由。雄鶏社によるSBの自由過ぎるこのやり方を我々は愛を込めて“ONDORISM(オンドリズム)”と名付けた(勝手に)。
しかしながら、この自由なページをほぼ毎回作っていた雄鶏社は2009年に倒産。もう新たなONDORISMを肌で感じることはできなくなってしまったのである、無念。
雄鶏社といえば、もうひとつ。“雄鶏社ONLY”こと、SBを雄鶏社から3冊も出していた風間トオルのそれは目を見張るものがある。そのコンセプトや構成が本当に華やかで洗練されているのだ。
モデル仲間たちとホテルで最高に楽しげなトオル(だって、ホテルのプールで騎馬戦をしてしまうレベル)。そして、タンクトップ型などのアバンギャルドなニットたちが登場。
その本のタイトルどおり、私たちはあっさりとトオル国王が治める“セーターアイランド”の住人になってしまうのだ。そのくらいキラキラしているし、ページを飾るトオルが俄然カッコいい!
となると「過去にSBを作っていた人に会ってみたい!」、そんな欲望が沸々とわいてきたのは言うまでもない。人間なんて欲望の塊なのである。
現在も「毛糸だま」など、多くのセーター実用書を発行している日本ヴォーグ社さんにその狂った眼差しを注ぐ流れに……。
ということで次回は、平成の最後になってついに動き出す我々(え? 遅い?)。
第2回「手芸書の殿堂こと“日本ヴォーグ社”へ行ってきた!」をお楽しみに。
今振り返る “セーターブック”の世界
2019.02.05(火)
構成=水野春奈
撮影=平松市聖
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