約1割もある、京都・清水寺が登場する話

 もうひとつ興味深いのは、420編ほど現存するお伽草子の中に、何らかのかたちであの京都・清水寺の登場する話が、約1割もあること。当時から信仰を集める観音霊場(≒名所・観光地)であったから、清水寺を登場させるだけで都の話という雰囲気が醸し出せただろうし、お伽草子を愛読する人々の間で、清水寺の観音に対する熱烈な信仰が共有されていたことも、影響していたに違いない。

鼠草子絵巻(巻二 部分)、五巻、16世紀、サントリー美術館蔵
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 たとえば鼠を主人公にした《鼠草子絵巻》では、鼠の権頭が畜生道から抜け出したいと清水寺へ祈願に参詣し、観音のご加護で人間のお姫さまを見初めてめでたく結婚するものの、清水寺へのお礼参りで留守にした隙に正体がばれてしまい、結局2人は離婚。権頭は高野山に出家するというもの。物語の始まりも転機も清水寺にあり、ストーリーを加速させたり、変化させたりする力を持った、特別な場所として描かれている。

酒伝童子絵巻(下巻 部分)、狩野元信筆、三巻
大永2年(1522)、サントリー美術館蔵
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 こうした楽しい/笑える/ちょっと怖い/悲しい物語の数々が並ぶ展覧会場は、さながら「まんが日本昔ばなし・日本美術編」といった趣き。「お勉強」気分ではなく、昔々の日本人たちが泣いて笑った物語を、同じ目線で楽しめるはずだ。

「お伽草子─この国は物語にあふれている─」
会場 サントリー美術館
会期 2012年9月19日(水)~11月4日(日)
休館日 火曜日
料金 一般1300円
問い合わせ先 03-3479-8600
URL www.suntory.co.jp/sma
※会期中展示替えあり
※画像の無断転載禁止

Column

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2012.10.13(土)