原作は村上春樹の「納屋を焼く」
マダムアヤコは『万引き家族』か『バーニング』のどちらかがパルムなのでは、と思っていたのだが、後者の関係者の姿は授賞式のレッドカーペットにはなく、無冠だったことがその場でわかった。
カンヌでは何らかの賞が決まった場合、「授賞式にぜひ出席してください」という遠回しな受賞連絡が当日あるため、レッドカーペットに登場した時点で、何かはもらったことがわかる。もちろん連絡が来なくても、出品者は出席して構わないのだが。
村上春樹の短編小説「納屋を焼く」が原作のこの作品は、『ポエトリー アグネスの詩』(10)で、カンヌの脚本賞を受賞した韓国のイ・チャンドン監督の8年ぶりの新作。
『ベテラン』の若手実力派スター、ユ・アインが小説家志望の主人公を、米国ドラマ『ウォーキング・デッド』のグレン役で人気のスティーヴン・ユァンが彼と幼馴染を翻弄する裕福な謎の男を演じる。
村上春樹の世界を、現代韓国の若者の閉塞的な状況にうまく移し替え、ミステリーとしての面白さもあり、私の知りうる限り、村上作品の映画化としてはもっとも成功していると思ったのだが、ケイト・ブランシェット率いる審査員たちの意見は、ちょっと違ったようだ。
というよりも、完成度よりも、前回書いたように、「今が反映されているか」という点で、賞に一歩届かなかったのではないかという気がしている。
『バーニング』や『寝ても覚めても』は完成度において、なんら遜色があったとは思えない。そして、やはり賞というのは誰が選ぶかも大きい。
審査委員長のケイトは授賞式で、「今年は、見えない人々(Invisible People)に声を与えた映画が目立ちました。無力で居場所も無い人々も、愛をもとめているのです」と語った。
『万引き家族』も、審査員賞を受賞したナディーン・ラバキー監督(レバノン)の『カペナウム』(原題:CAPHARNAÜM)も、見えない人々=社会的にいないことにされがちな人々に焦点をあてている。『カペナウム』で親に搾取されるスラムの少年を助けてくれるのが、不法移民の女性というのも、『万引き家族』に通じるものがある。
あまりにストレートすぎて批評家からは貧困ポルノだとも指摘されたが、メッセージは強烈だった。少年の11歳の妹が親によって大家の男に嫁がされるなど、格差社会を、そして女性や子供の虐待を告発する映画は、まさに世界の今を反映していた。
さて、マダムアヤコが敬愛するゴダールとの“出会い”についてなど、語りたいことはまだまだあるのだが、それは次回に。
石津文子の
カンヌ追っかけ日記2018
2018.11.07(水)
文・撮影=石津文子
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