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今月のオススメ本
『公園へ行かないか? 火曜日に』
滞在中、文化や言語の違いから始終していたスマホ検索、プログラム終了後に自費で滞在を延ばして目撃したアメリカ大統領選……。著者が文化と言語とコミュニケーションについて考察し描いた連作小説集。カバーに使われた美しい写真は、すべて柴崎さんが撮影。
柴崎友香 新潮社 1,700円
アメリカ中西部にあるアイオワ大学が毎年企画している、インターナショナル・ライティング・プログラム。柴崎友香さんは2016年に招待され、33カ国、37人の作家や脚本家らと大学構内にある宿舎に3カ月弱滞在。朗読会やディスカッションなどに参加した。本書はその体験をもとに書き上げた11篇だ。
「書き始めたのは帰国後しばらく経ってからです。きちんとしたメモは取っていなかったので、撮った写真なども見ながら、自分自身がもう一度体験し直すような感覚でした」
表題作は、滞在開始から1カ月ほど経ち、やや打ち解けた作家たちに誘われて出かけた公園での出来事。
「英語があまり得意ではないせいで、理解していることがいつも薄ぼんやりしていて、あんなことに。振り返れば、滞在中の生活を象徴するような一日だったなぁと(笑)」
柴崎さんは、異国に暮らし母語以外の言語でコミュニケーションをとるうちに、言葉というものを腑分けするように吟味し、考えるように。
「英語が第一言語じゃない人同士が意思疎通する道具として、英語ってつたなくてもとても有益な言語。その一方で、母語によるコミュニケーションって常にわかりあえている気でいるけれど、実は無意識的すぎていろんな齟齬に気づかないだけじゃないのかと思ったり。また、英語の一人称はIしかないけれど、日本語には私、俺、僕といろいろあって、しかも話し始める前から無自覚に使い分ける。主体の強いIに比べ、日本語の“自分”はとても曖昧。言葉のあり方そのものが、その国の社会やコミュニケーションのあり方にも影響しているのだなと感じました」
高い英語力を持った香港の作家ヴァージニアが、なぜ英語で書かないのと問われ、〈英語はわたしにとってエモーショナルな言語じゃないから〉と即答したという記述がある。
「エモーショナル度で言えば、私の場合は、しゃべっていても書いていても標準語だと“言えてない感”がものすごくあるんです。東京に住み始めたばかりのころは、もっと慣れれば違和感はなくなるだろうと思っていたら、10年経ったいま、“ウソついてる感”くらいに強くなりました(笑)。たぶん大阪弁の私と標準語の私では人格も違う。だからこそ、言葉の使いかたについてはもっと意識的にならなければと考えるきっかけにもなった。もっと広く伝わりやすい言葉と、自分がいちばん表現できる言葉の間で、葛藤しながら書いていくんだろうなと思いますね」
Column
BOOKS INTERVIEW 本の本音
純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!
2018.10.22(月)
文=三浦天紗子