20年前に刊行された、やまだないとの名作青春コミックを映画化した『王様とボク』で、6歳の心を持つ18歳の少年・モリオを演じている菅田将暉(すだまさき)さん。前回に引き続き今回は、デビュー作「仮面ライダーW」卒業後から最新作までの活動を、より深く振り返ってくれた。

小栗旬、三浦春馬らとの共演から得たもの

――大阪から上京し、演技のレッスンをする間もなく、2009年「仮面ライダーW」という大作でデビューされた菅田さんですが、自身の転機となった作品は何だったといえますか?

 人生の転機になった作品は確かに「ライダー」だと思いますが、役者としての転機となった作品は大きく分けて、いくつかあるといえます。まずはデビュー翌年、ドラマ3作目となった「獣医ドリトル」。小栗旬さんとの出会いであると同時に、石井康晴監督に出会った作品でもあります。劇中で泣くシーンがあったんですが、演技前、戸惑っている僕に石井監督が「君は役者なんだから泣ける」と言ってくださって……。その後、リハーサルでは涙を出すつもりはなかったんですが、小栗さんのお芝居に圧倒されて、感情が溢れ出てしまい、ボロ泣きしてしまいました。このとき、今まではお芝居を自分の中でしか作っていなかった、つまり、“受け”の演技については考えたこともなかったと気付かされたんです。

――石井監督とはその後、2011年の「ランナウェイ~愛する君のために」などでも組まれていますよね?

 そうなんですが、「ランナウェイ」については後ほど(笑)。その次の転機となったのは「ドリトル」の直後に撮った「大切なことはすべて君が教えてくれた」だと思います。三浦春馬くんと共演して、先生役の春馬くんを生徒役の僕が泣きわめきながら殴るというシーンがあったんです。でも、あのときのことは、あまりにも感情が高ぶりすぎて記憶がないんですよね。カットがかかっても、茫然としていたみたいなんですよ。今までそんな経験はなかったんですが、それがちょっと快感でもあったりして……(笑)。それに、あの放送を見てくれた人たちが、その後にいろいろ声をかけてくださったりすることで、どこか自信に繋がっていったと思います。

――新体操部を舞台にした舞台版「タンブリング」では、2010年のVol.1、2011年のVol.2と2作連続で出演。ちなみに2作目では座長という大役を務めました。1作目は初舞台ということでしたが、そういう特殊な環境で演じるということで、考え方の変化みたいなものはありましたか?

 1作目のときに新体操を初めてやったんですが、「人間ってやればできるんだ」ということを学んだ気がするんです。本来、舞台って、作り上げたできることを見せる場だと思うんですが、この舞台では、それまでできなかった技を本番でやらせてもらったり、本番じゃなきゃできない奇跡のようなことが何度か起きたんです。敵チームを演じていた体操のプロの方たちも、ステージ袖で「頑張れ!」と叫んでいるし、ステージ上も、お客さんも会場が一体になりましたし。それは舞台のようで、舞台じゃない感じがしました。マネージャーさんが「自分の担当している役者を舞台で見て、初めて泣いた」と言ってくれたことはうれしかったですし、僕自身もこみ上げるものがありました。芸能界デビューするために、高校のアメフト部を途中で辞めていたこともあり、どこかで青春というものがなかった気がしていたんです。だから、あの舞台で“青春”を取り戻せたという感じがしましたね。

<次のページ> エンタテイナーとしての快感を覚えた女装体験

2012.09.21(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Shigeki Yamamoto