知る人ぞ知るデュエットの名曲は?

日本をコンセプトにしたアルバム『JAPAN as waterscapes』。全曲作曲河合奈保子! 太陽が似合うと言われた彼女だけど、これを聞くと「月」の人だよなあと思う。名盤!

 美しいルックスとナイスバディが類稀なる音楽の才能をちょっぴり隠してしまう。本人的には葛藤だらけだったに違いない、そんなアイドル時代。

 しかし、「私水着NGなんで!」と言わず、水泳大会だろうが写真集だろうが、どんな布の面積の少ない服を着せられても、スマイル・フォー・ミーしながら堅実に歌い続け、年齢とともに見事にアーティストとして開花した誠実さは本当にすごい。

 今から半年前くらいだろうか。ハッキリ覚えていないが、偶然、池田泉州銀行のCMのクレジットに彼女の名を見つけ、

「おおッ」

 と小さく声が出てしまった。しかも歌なし。メロディーだけである。この時のなんともいえないほのぼのした嬉しさ! またどこかで素敵な音楽が流れていて、ひょっこり「Naoko Kawai」なんて文字に微笑んでしまうこともあるかもしれないなあ。

 「ブレないやまとなでしこ」河合奈保子。しなやかな強さを持った人って本当に最強。

 女から見たら、水着の彼女より、「疑問符」や「ハーフムーン・セレナーデ」「十六夜物語」を、露出を控えて憂いの表情で歌う彼女のほうがよっぽどセクシーだもの。

奈保子&小金沢くんの「ちょっとだけ秘密」。これは改めて評価されていい! 平成のカラオケに足りないもの。それはユーモラスに男女の恋愛を歌えるデュエットソングだ。

 ちなみに裏オススメは「奈保子&小金沢くん」名義で出したデュエット「ちょっとだけ秘密」。彼女の真面目さが逆にユーモラスな魅力となり、最高にゴキゲンな仕上がりとなっている。作詞作曲東京バナナボーイズ、ナイスだ!

 そうやっていろいろ思い返しながら彼女の名曲を改めて聴いてつくづく思った。

  河合奈保子をあわてて生誕55周年を口実にして掘り起こすなど無粋だった。彼女の可憐で潤いを含んだシルキーボイスは、夏にとてもよく似合う。それでじゅうぶんではないか。

田中 稲(たなか いね)
大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。現在は「関西ウォーカー」で“Kansai Walkerで振り返る! 00年代の関西”連載中。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2018.07.24(火)
文・撮影=田中 稲
写真=文藝春秋