18世紀の女性の化粧品事情からヒントを

 やがて決まったコンセプトは、「美しき裏切り」。発見や驚きを伴う美の提案を現代のレ・メルヴェイユーズたちに届けたいと思ったという。その中心がチーク!

「18世紀の歴史をひもとくと女性と頬化粧は切っても切れないことがわかったのです。同時に流れとしてチーク復活の兆しも見えて」

 でも、バラの花びらチークを作ろうと思った理由はなぜなのか?

「18世紀、化粧品がなかった時代に女性は、原料をすりつぶしたり混ぜたりして自分で化粧品を調合していたといいます。フランスでは花をすりつぶした色で頬を化粧することが流行っており、ベルサイユでも誰よりも赤く頬をバラで染める競争をしていたほど。バラは高価で入手困難なので、バラ色を頬にまとうことは、すなわち高貴な身分の証だったのですよね」

 しかし従来の化粧品技術では花びらのリアル感がどうしても出ず、彫金加工の職人さんを探し出して、花弁の細かな線まで再現した曲線形状を彫ってもらった。

「この花弁に化粧料をのせることで本物の花弁のようなチークカラーができました。具体的な製法は秘密ですが、複雑で繊細な手法は工場泣かせの連続でして(笑)」

 ではゆでたまご置きのようなクリームチークはどういう発想で?

「この形はアンティークの針刺しを模したものなんですよ。古典絵画の技法で、顔に女性らしいふくよかな立体感を与えようとした時、当時の画家がみな、頬から口角の横まで縦の範囲に血色を入れていることに気づいて。まずはそこに本来顔が上気した時の血色を入れてもらおうと思いついたのです」

 ベースの上から自由な色を重ねて、予想外の発色を楽しんでほしいというのがパウダーチーク。

「レ・メルヴェイユーズたちがカメオを愛していたと知り、カメオ型のチークもどうしても作りたくて。でも表面に絵柄を彫る処理はありがちなので、もっと意外性のある楽しみはないかと頭をひねり……これ、最後まで使うと底からカメオが出てくるんです~」

<次のページ> ただ甘いだけでなく高貴さと知性を忍ばせて

2012.03.26(月)
text:Keiko Watanabe
photographs:Nanae Suzuki / Hirofumi Kamaya

CREA 2012年4月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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