夏はやっぱりお祭りに限る!
横浜でアートの祭典へ

3年に1度開催されるアートの祭典が、横浜みなとみらい地区を中心に開催。「島と星座とガラパゴス」という副題は、接続性と孤立という現代社会の課題をアートで読み解いていくことを目指し付けられた。世界各地の現代アートが至るところに出現。クリスチャン・ヤンコフスキー《重量級の歴史》2013 Photographer:Szymon Rogynski Courtesy:the artist, Lisson Gallery

 始まりは、横浜トリエンナーレだったのだ。

 いま日本国内ではビエンナーレにトリエンナーレ、国際芸術祭などいろんな名前のアートの祭典が、一年を通し各地で開かれている。盛り上がっているものもそうでないのもあるというのが正直なところだけど、ひとつの流行なのは間違いない。ちなみにビエンナーレとはイタリア語で「2年に一度」、トリエンナーレは「3年に一度」の意。世界で最も由緒ある“アート界の五輪”ヴェネチア・ビエンナーレの影響で、イタリア語の呼称が定着している。

パオラ・ピヴィ《I and I(芸術のために立ち上がらねば)》2014 Photo:Guillaume Ziccarelli Courtesy of the Artist & Perrotin

 日本で芸術祭が急増したのは、「どうやらアートは人が呼べる。イメージアップにもなりそうだし」という考えが、自治体や企業に浸透した結果だろう。そう信じるための格好の見本となったのが、2001年に第1回が開かれた横浜トリエンナーレだった。

 回を重ねるごとに国内外での認知は広がり、会期中の動員数は最大で約35万人と、集客力抜群のイベントに育った。その一応の成功を見て、「わが地域でもぜひ!」と、芸術祭が広まっていったわけだ。

 横浜トリエンナーレは毎回、みなとみらい地区を中心とする各所で展開されてきた。横浜観光の中心地であり、もともと人が集まる場所なのだから、そこでお祭りをすれば人出が見込めるのは堅い。地域の優位性を最大限に生かしてあり、他の地域が容易に真似できるわけではないけれど、ともあれ「憧れの存在」として芸術祭流行のきっかけとなった功績は特大。

 そんな日本の芸術祭の本家が、この夏、開催される。国内外の約40組のアーティストが、横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫、横浜市開港記念会館ほかで展示を繰り広げる。

アイ・ウェイウェイ(艾未未)《Reframe》2016 Exhibition view at Palazzo Strozzi, Photo:Alessandro Moggi (C)Ai Weiwei Studio

 出品作家は、地域や作風などに偏りがなく、幅広く選ばれている印象。アイ・ウェイウェイ、オラファー・エリアソン、マウリツィオ・カテラン、小沢剛、畠山直哉ら国際展でおなじみの面々が多めだが、日本でほぼ初公開のエジプト出身ワエル・シャウキーがアラブ世界の風を持ち込んだり、ドイツのクリスチャン・ヤンコフスキーがユーモア溢れる映像を見せてくれたりと、眼を引くポイントは無数にあって飽きさせない。

 思えば芸術祭は、音楽の世界における「フェス」みたいなもの。目当てのミュージシャンがいなくたって、フェスに足を運べばいろんな音楽に触れられるし、祝祭的な空間で音に浸る体験自体が楽しい。芸術祭も同じだ。横浜の街に出て、いまここでしか味わえない視覚体験を楽しめば、きっと何より貴い夏の思い出になる。

ヨコハマトリエンナーレ2017
「島と星座とガラパゴス」

会場 横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館(神奈川・横浜)ほか
会期 2017年8月4日(金)~11月5日(日)
料金 一般1,800円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.yokohamatriennale.jp/

2017.08.25(金)
文=山内宏泰

CREA 2017年9月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

本と音楽とコーヒー。

CREA 2017年9月号

100人の、人生を豊かにする1冊、1曲、1杯
本と音楽とコーヒー。

定価780円