劇場の入り口で見つかった不審物

不審物騒ぎがあった直後のパレ・デ・フェスティバル前。ドビュッシー・シアター(パレとつながっている)から退避させられた人々で騒然としていた。

 そして本編が上映され(フル4K版では撮影の素晴らしさが浮き彫りになり、改めて傑作と確信)、10分以上のスタンディングオベーションに応えるイーストウッドの目には光るものがあり、ラッキーにも近くの席だった私も握手をしてもらい大感激だったのだが、問題はそのあとだ。

 イーストウッドも去り、私もドビュッシー・シアターからパレ3階のプレスルームへ移動した。この際も警察犬がうろうろしていたものの、特段騒ぎもなかったのだが、20分ほどして建物を出ようとすると何やら騒然とした雰囲気。追い立てられるように外に出ると、ドビュッシー・シアター入り口で不審なバッグが見つかったというのだ。ひーっ。

手製のグッズを手にキムタクを待つ中国人ファン。なんとパリ、北京、ニューヨークから集まったそう。「彼を支えてあげたくてカンヌまで来たの!」という中央の女性は、北京在住の弁護士。

 あらゆる場所を警察犬が嗅ぎ回り、銃を抱えた警察、軍隊も出動して、やたらと物々しい雰囲気に。ドビュッシー・シアターでは『許されざる者』が6時半すぎに終ると、すぐに夜7時15分から若き日のゴダールの恋を描く話題作“Redoubtable”のプレス試写が予定されていて、観客が入れ替わったのだが、近くにいた欧米人のプレスによれば、会場に入った途端に警察から退避命令が出たのだと言う。

 最終的に、バッグの中身は危険物ではなかったことが確認され、1時間遅れで試写はスタート。しかし翌々日、英国マンチェスターのコンサート会場でテロ事件は起きてしまった。カンヌ映画祭もすぐに「文化イベントへの攻撃は許さない」と声明を発表し、被害者のため、そして英国の人々ために1分間の黙祷が捧げられた。

 とはいえ、立ち直りが早いのも映画人の特徴。映画祭は華やかにその後も続いた。マダムアヤコも、もちろんミーハーに取材に励んだのだった。

『The Beguiled』で監督賞を受賞したソフィア・コッポラにインタビュー中のマダムアヤコ。テレビ向けインタビューは、案外狭いホテルの部屋で行っているのだ。

石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。執筆以外にトークショーや番組出演も。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。長嶋有さん主催の俳句同人「傍点」メンバー。俳号は栗人(クリント)。「もっと笑いを!」がモットー。